最近、消費者問題に関心のある全国の弁護士のメーリングリストで、気になる事例が散見されました。このブログでも何年か前に似たような事例をご紹介していましたが、改めて注意喚起をしたいと思います。
 それについてお話しする前に、まず「時効」についてご説明します。

 時効には、権利を得る時効と、権利を失う時効があります。
 今回問題となるのは、権利を失う時効の方です。この時効を「消滅時効」と呼びます。

 消滅時効は、「権利を行使しないまま一定期間が経過したら、その権利が失われる」、というものです。
 例えば、AさんがBさんに10万円を貸したとします。それから二人の間ではまったく10万円の借金について話題にもなりませんでした。しかし、10年経ってから二人が仲違いし、その時にAさんはBさんに「あの時に貸した10万円を返せ」と言ってきたとします。それに対して、Bさんは、「10万円の返済義務は時効で消滅しているから返す必要はない」と言い返すことができます。


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 (イメージ図:Aさんの視線から顔を背けるBさん)


 さて、この時効のシステムには、注意すべき点が3つあります。

①時効成立に必要な期間はケースバイケースで異なる
 上の事例では時効が成立するために必要な期間を10年間としていますが、権利の内容や元々の返済時期によって、「いつから」「何年間が必要か」は変わってきます。
 必要な期間は10年より長い場合もあれば短い場合もあります。また、元々の返済時期がある場合には、返済時期が来るまでは時効に必要な期間はスタートしません。上の事例ですと、もともと返済時期が10年後だった場合、10年後の返済時期からさらに10年が経過しないと時効は成立しません。

②時効は放っといたら成立しない
 時効は、成立に必要な期間が経過したら自動的に効力が生じるというものではありません。時効の効力が生じるためには、「時効により消滅しています」という意思表示をする必要があります。この時効成立に必要な意思表示を「時効の援用」といいます。
 これは、一応、時効により返済義務を失うことを本人の意思に決定させるため(本人が望まないのに義務を消滅させることはない)、という趣旨です。

③時効成立に必要な期間はリセットされることがある
 時効成立に必要な期間は、「あること」が行われるとリセットされます。上の事例でいうと、5年が経過して、時効成立まであと5年という時に、「あること」が行われると、既に経過した5年間が無しにされ、それからまた10年が経過しないと時効が成立しない、ということになります。
 この「あること」で一番留意すべきなのが、「返済をすること」です。
 上の事例でいうと、BさんがAさんから10万円を借りて、それから5年後に何かのついでに1000円だけ返したとします。そうすると、その時点で時効に必要な期間はリセットされますので、1000円を返してからさらに10年が経過しないと時効は成立しない、ということになります。
 しかもこれは、時効に必要な期間が経過してからも同じです。つまり、BさんがAさんから10万円を借りて、それから10年後にAさんから「10万円を返して欲しい」と言われ、Bさんはとりあえず手持ちの中から先に1000円だけ返したとします。その後、家に帰って冷静に考えると10年経過していたことに気づいて、Aさんに「10万円は時効だからもう返済しない」と伝えました。しかし、それに対してAさんは、「1000円を返した時に時効の期間はリセットされた。それからまだ10年経ってないので時効は成立しない」と反論できるのです。せっかく10年という時効に必要な期間が経過していたにもかかわらず、1000円を返済したことで、この10年が無かったことにされてしまうのです。

 さて、ここで冒頭のメーリングリストで話題になった事例に戻ります。
 その昔キャッシングやショッピングを利用していて、その後、なんやかんやで返済しないまま10年以上が過ぎましたが、突然いまになって返済を請求する通知が届きました。その通知書によると、残元金が10万円で、遅延損害金が200万円に膨らんでいました。そして、このまま放置していると法的手続をとることになるので連絡するようにといって電話番号が書いてあったので、とりあえずその番号に電話をかけてみました。そうすると、とにかく1000円でもいいのでまずは返済して欲しいと言われたので、1000円だけならいいかと思って、先に1000円を振り込みました。
 このとき、本来なら時効に必要な期間が経過していたので、「時効です」と言えば済んだのに、たとえ1000円でも先に返済をしてしまった結果、それまで経過した期間が無かったことになり、残りの209万9000円を返せと裁判まで起こされた、というものです。このとき、相手方は1000円でもいいので先に振り込ませれば時効の期間がリセットされると分かっているので、最初は少額でいいので振り込んで欲しいと言い、そうして時効の期間がリセットされてから本格的な取り立てを始めるわけです。
 しかも、こういうことをサラ金業者や債権回収会社だけでなく、法律事務所(弁護士法人)が業務として行っているケースもあるようです。

 法的には時効に必要な期間が過ぎても請求は可能なので、請求することが正当な権利行使といえばそうなのでしょう。だからこそ、請求された側も「消滅時効」という正当な権利行使をする必要があります。
 <strong>かなり昔に使ったままのカードの支払請求が来た場合は、相手方に連絡する前に、とりあえず請求書をもって法律相談する</strong>ことをお勧めします。
 当事務所では「時効援用通知書」の作成サービスも行っています(費用は相談料込みで税別1万円)。請求書を持ってご相談に来ていただければ、その場で時効援用通知書を作成してお渡ししますので、そのままそれを持って郵便局に行って配達証明付内容証明郵便で出すだけで完了します。


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 (イメージ図:時効援用通知書を出してスッキリしたBさん)