公開されている個人情報なら転載しても許されるか

 3年ほど前に、官報に掲載された破産者の氏名や住所をマップ形式でまとめたサイトが登場したことがありました。
 これについてはサイトの存在が発覚してから早々に全国から問題提起がなされ、最終的には政府の個人情報保護委員会から行政指導がなされて閉鎖するに至りました。

 その時のサイト運営者の弁明は、破産者の氏名や住所は官報で公開されている、既に公開されている情報を整理しただけであるからプライバシー侵害等の問題は生じない、というようなものでした。
 確かに一見すると筋が通っているように思えなくもないですが、はたして本当に既に公開されている個人情報を転載するだけであればプライバシー侵害等の問題は生じないのでしょうか?

 実際、公開されている情報を転載したことの是非が問われた裁判があります。

 東京地裁令和3年9月10日判決(令和3年(ワ)15950号発信者情報開示請求事件)では、東京家庭裁判所に掲載された開廷表に基づいて当事者名等をインターネットに投稿した行為がプライバシー権の侵害に当たると判断されました。
 裁判所の開廷表にはその日に開かれる訴訟事件の事件名や当事者名が記載されているのですが、この事件では裁判所に掲示されている開廷表を転載しており、第三者がそれを見ることで誰が離婚訴訟をしているか等がわかる状態となっていました。
 とはいえ、個人情報としては基本的に氏名のみなので、全く知らない人が見てもどこの誰かというところまで特定できるわけではありません。ただ、当事者を知っている人が見れば、「ああ、あの夫婦は離婚裁判をしているんだな」と分かり得ます。
 当該事件では、離婚というのは基本的に他人に知られたくない私生活上の秘密であるから、プライバシー権の侵害が認められると判示しました。

 結局のところ、いかに公開されている情報とはいえ、拡散されることが一般人の感覚からすると望まれないような内容である場合には、無断で転載すると違法とされるリスクがある、ということになります。

 特に、もともと公開されている目的から外れた用法で転載する行為は違法とされるリスクが高いといえます。
 官報に破産者の氏名等が掲載されるのは債権者に破産手続に関与する機会を保証する為なので、破産手続が終了すれば破産者の氏名等を公開する目的性は失われます。
 開廷表も、当日の裁判の進行を案内するためなので、その日の裁判手続が終了すれば公開する理由は無くなります。
 したがって、それらを転載して公開する行為には目的に合理性がないこととなるわけです。

この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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