裁判所の考える分割方法の優先順位

遺産分割が協議でも調停でもまとまらない場合、裁判所が審判を出して遺産分割の内容を決定します。
裁判所がどのような遺産分割とするかは、①現物分割、②代償分割、③換価分割、④共有分割、の順番で決定されます。
それぞれの分割方法についてご説明します。

①現物分割
個々の財産の計上や性質を変更することなく分割する方法です。
預貯金などは基本的にこの方法で分割することが多いでしょう。
しかし、遺産が不動産の場合は、そう都合よく分割(分筆)できるとは限りません。不動産が複数あれば各不動産を分配するという方法もありますが、一戸建1棟のみというような場合は物理的に分割ができません。

②代償分割
一部の相続人が法定相続分を超える財産を取得し、その代わりに他の相続人に対して代償金を支払うという方法です。
例えば、遺産が預貯金(1000万円)と不動産(2000万円)で相続人が2人(法定相続分は同じ)という場合、それぞれの相続分は(1000万円+2000万円)÷2=1500万円となります。このときに、片方が預貯金を相続し、もう片方が不動産を相続し、不動産を相続した方から預貯金を相続した方に代償金500万円を支払う、というものです。
なお、審判で代償分割を希望する場合、法定相続分を超える財産を取得する者から、代償金を支払う資力があることを証明する必要があります。具体的には、預金の残高証明書や通帳の写し等を提出し、代償金を上回る残高があることを明らかにします。
ただし、これは不動産を取得することを強く希望する者がいる場合であって、不動産を相続することを希望する者が誰もいないという場合には難しくなります。

③換価分割
遺産を売却処分し、売却代金を分配する方法です。
不動産の場合、地域の不動産業者に任意売却を依頼し、売却ができたら売却代金を相続分に従って分割することになります。
ただ、売却までに時間がかかることがありますし、もともと売却が困難な(買い手がつかないような需要のない)不動産では難しい方法になります。
なお、裁判所が換価分割を決める場合、任意売却ではなく競売処分が命じられます。そうすると、一般的に競売は任意売却よりも安く買い叩かれるため、相続人全員にとって得策ではありません。そのため、競売が命じられるのであれば任意売却にすることを合意するのが通例でしょう。

④共有分割
遺産を相続人の共有とする方法です。
不動産の場合は、登記上で全相続人の共有となります。共有持ち分は相続分と同じになります。
ただ、共有不動産の管理方法で揉めたり、将来的に共有者が増えて処分が困難となる恐れがあります。
そのため、裁判所が共有分割とするのは、上記①~③の方法が困難な場合など、最終的な手段として選択せざるを得ない場合に限られると解されています。

以上です。

遺産分割の協議や調停では、裁判所の考える遺産分割の順位を念頭に置いて、自分が希望する遺産分割に向けてどのように進めることができるかが重要です。
それができないと、最終的に裁判所の判断に委ねることとなった場合、自分が思っていたのと違う結果となってしまう恐れがあります。

この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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