離婚届の用紙の改正について

 先日、離婚届の用紙を改正するかもしれないというニュースがありました。
 離婚届の用紙に養育費の具体的な内容について記入する欄を設けるなどというもので、趣旨としては離婚後の養育費の不払問題を解消するためとのことです。

 離婚届の用紙ですが、2012年にも改正されたばかりです。この時の改正により、離婚届の中に面会交流や養育費について協議をしたかどうか、というチェック欄が設けられることになりました。
 ただ、これはあくまで話し合ったかどうかについてチェックするだけです。安易に離婚届を提出する前に、きちんと重要な点について話し合うよう促すためのものといえるでしょう。

 他方、今度の改正ではそこから一歩踏み込んで、恐らく養育費の月額について記入するような方向で検討しているものと思われます。
 ただ、実務的な観点からすると、このような扱いにはやや疑問が残ります。

 というのも、これは法的には離婚届が養育費の合意書も兼ねることになると解されます。そうすると、合意済みの養育費の請求は、家庭裁判所における調停審判ではなく、地方裁判所での裁判となります。また、裁判では当然に将来請求が認められるとも限りません。そのため、もし不払問題が生じた場合、かえって請求者側の負担が大きくなるのではないかと予想されます。
 また、離婚届の養育費の月額を勝手に記入された、という事例も生じてくるのではないかと予想されます。実際、離婚届に自分の署名捺印だけして相手に渡すというケースは多いように思われます。
 それでも、合意した月額に関わらずに改めて養育費を決めて欲しいということで、家庭裁判所の調停審判を行うことも考えられますが、そうすると何のために離婚届に養育費の月額を記入することにしたのか、という根本に戻ってきます。
 養育費の金額の合意は離婚成立の要件ではないので、もし離婚届に養育費の金額を記入していなかったとしても、役所としては受理しないわけにはいかないでしょう。そうすると、ますます何のための記入欄なのかという疑問が出てきます。

 以上のとおり、離婚届に養育費の金額の記入欄を設けることは、不払問題の解消のためには実効性がなく、かえって問題が生じる恐れがあると考えます。
 個人的な見解としては、そこまで国が介入するようなことではなかろうとも思います。

この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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