不倫慰謝料のポイント

芸能界などのゴシップニュースで不倫に関する報道はこれまでも多かったですが、最近では不倫慰謝料の裁判の内容についても触れられるのを目にするようになりました。
また、近時も不貞相手に対する離婚慰謝料(不倫慰謝料ではありません)の請求は認めないとする判例が生まれるなど(最三小平成31年2月19日判決)、実務的にも裁判例の傾向を追うことが重要になっています。
ここでは、不倫慰謝料の請求に関する実務のポイントについてご説明します。

目次

不倫の証拠となるもの

不倫の事実関係に争いがなければ証拠は必要ない場合もありますが、もし不倫慰謝料を請求してから不倫の事実関係を否認されたときには、請求する側が証拠でもって不倫の事実関係を裏付ける必要があります。

実務上、不倫の証拠としてよく使用されるのは、興信所の報告書、メールやLINEのやり取り、携帯電話に保存されている写真などです。

以下、それらが不倫の証拠として使用できるかが問題となる2つのポイントをご説明します。

不貞行為があったと確認できるか

不貞行為とは、端的にいうと「性交」のことです。

よって、不倫の証拠として使用するには、性交したことが裏付けられるかが重要です。

興信所の報告書の場合、ホテルや自宅に宿泊したことが分かるかが問題となります。宿泊したことが分かるかというのは、ホテルに入るところとホテルから出てくるところを写真で確認できるか否かになります。裁判実務では二人でホテルで宿泊したという時点で基本的に不貞行為があったと認定されるので、ホテルの中まで尾行して証拠を押さえる必要はありません。

メールやLINEのやり取りの場合は、肉体関係があったことを直接的あるいは間接的に示す内容があるかが問題となります。

写真の場合は、二人でホテルの中で撮影された写真などが使用可能なものとなります。

不貞の故意があることが確認できるか

不倫相手に不貞の故意がない場合には、慰謝料請求は認められません。

不貞の故意というのは、「相手が既婚者であることを知りながら不倫したこと」です。

一般的には既婚者であることを知っていたと推察されるようなケースや、あるいはそもそも不貞の故意については争われないケースが多いため、不貞の故意が問題となる事例はさほど多くはありません。

ただ、不貞の故意が争われた場合には、不倫慰謝料を請求する側が、相手が既婚者であると知っていたことを立証する必要があります。

これについては、興信所の報告書や写真からは確認できないことがほとんどです。

メールやLINEのやり取りであれば、既婚者であることを前提としたやり取り(例「奥さんにばれないように~」)が確認できるかが問題となります。

不倫相手の氏名住所の調べ方

不倫が発覚するきっかけとして多いのが、配偶者が携帯電話を肌身離さず持ち運ぶようになった、というような日常の態度の変化です。

そして、その場合には、配偶者の携帯電話を盗み見て、メールやLINEでの不倫相手とのやり取りを見つけ、不貞が発覚するということが多いです。

そのようなケースでは、不貞相手のメールアドレス等は分かっても、氏名住所までは分からなかったという場合もあります。

そのような場合でも、不貞相手の電話番号、メールアドレス、LINEのID(フレンド名等は不可)のいずれかが分かれば、弁護士会照会を利用して相手方の氏名住所が分かる可能性があります。

弁護士会照会というのは、弁護士が依頼を受けた事件処理のために弁護士会から各機関に照会をしてもらうという制度です。

これを利用することで、例えば電話番号が分かれば、携帯電話会社に弁護士会照会をして当該電話番号の契約者として登録されている氏名住所を回答してもらうことが可能です。

婚姻関係の破綻後の不倫

不倫慰謝料の請求が認められるのは、不倫をしたことによって平穏円満な婚姻関係を破壊されたことによる精神的損害を慰謝するためです。

したがって、不倫が始まる前から婚姻関係が破綻していた場合には、不倫慰謝料の請求は認められません。

それでは、どのような場合に婚姻関係が破綻していたと認定されるかというと、基本的には別居しているかどうかで判定されます。

つまり、夫婦が既に別居生活をしていた後で不倫が始まった場合には、不倫慰謝料請求は認められません。

これは完全な別居生活の場合ですので、ただのいわゆる家庭内別居の場合は婚姻関係が破綻していたとは認められないことがほとんどです。

なお、不倫慰謝料を請求された側から、「婚姻関係が破綻していたと聞いていたからそれを信じて不貞関係となった。だから不貞の故意がない」などと反論されることがあります。

しかし、不貞の故意は「相手が既婚者であることを知っていること」ですので、婚姻関係が破綻していたと認識していたことではありません。よって、このような反論は法的には意味がありません。

不倫相手からの求償

当然ながら不倫はひとりではできません。相手が必要です。

したがって、不倫慰謝料を請求する場合、不倫をしたどちらかだけに請求することもできますが、不倫をした両方に請求することもできます。

しかし、不倫慰謝料は精神的損害を慰謝するためのものですが、精神的損害すなわち心はひとつなので、不倫当事者のどちらかから相当額の不倫慰謝料を貰って精神的損害が慰謝されたとみなされる場合には、他方には不倫慰謝料を請求することはできません。いわゆる二重取りはできないことになります。

そうすると、もし配偶者(離婚した場合は元配偶者)ではなく不倫相手にだけ不倫慰謝料を請求した場合、不倫相手は不倫慰謝料を支払ったのに、(元)配偶者は不倫慰謝料を支払わないというように、不平等な結果となります。

そのため、不倫慰謝料を支払った場合には、不倫慰謝料を支払った者から不倫をした相手に対して、不倫慰謝料の一部を負担するように請求することができます。

このような請求を「求償」といいます。

ただし、求償するためには、不倫をした当事者間での責任割合に応じた分以上の慰謝料を支払っている場合に限ります。

したがって、和解金として少額の慰謝料しか支払っていないような場合には、求償はできません。例えば、相当な不倫慰謝料の額が100万円の場合に、30万円の慰謝料を支払ったというときは、相当額の半分すら支払っていないため基本的に求償はできません。

また、求償する際の責任割合ですが、基本的には50:50、つまり支払った不倫慰謝料の半分を請求できる場合が多いです。

しかし、不倫した当時に上司部下の関係だったなど、どちらかの立場が上であるような場合には、責任割合は立場が上の者の方が大きくなります。 

まとめ

不倫慰謝料請求を請求するきっかけは、配偶者の携帯電話等から何らかの証拠を見つけたというケースが多いです。

その証拠が裁判でも使用できる内容なのかどうかは、早い段階で弁護士に確認するのが望ましいです。

というのも、もし裁判で使用するには不足する内容の場合には、再び配偶者の携帯電話等をチェックする必要があるためです。弁護士に相談する前に配偶者に証拠を突き付けたりすると、携帯電話等のチェックができなくなってしまい、証拠不足に陥る可能性があります。

また、不倫慰謝料を請求された場合、最初は高額な慰謝料が請求されることもあります。

そのようなケースでは減額交渉をすることになりますが、請求する側が弁護士に依頼して不倫慰謝料を請求している場合には訴訟提起も見据えていることがほとんどなので、請求された側も不倫慰謝料の交渉や訴訟について経験豊富な弁護士に相談した方が望ましいでしょう。

この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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