裁判報道の見方 ~任天堂×コロプラの特許権侵害裁判

 先日、こんな報道がありました。

ITmedia ビジネスオンライン
任天堂、コロプラへの請求金額を44億円から49億5000万円に増額 「時間経過によって請求金額を追加した」とのこと。

 任天堂がコロプラに対する裁判で請求額を増額したというものです。正直、どうしてこれがニュースになるのか今一つ分かりませんでしたが、裏を読むと「もしかしたらこういうことか」と思うところがあったのでご紹介します。

 この裁判ですが、もともとは2017年12月に提訴されたもので、任天堂がコロプラに対して【コロプラのスマートフォン用ゲームアプリ『白猫プロジェクト』が任天堂の特許権を侵害している】として巨額の損害賠償を請求したというものです。
 詳しい内容については知りませんが、提訴当時の報道で、任天堂の主張に対してコロプラが、『任天堂の特許権はゲーム機に関するものである。白猫プロジェクトはスマートフォン用のアプリであり、スマートフォンはゲーム機には該当しない』などと反論したというのを見て、『確かにスマートフォンはゲーム機とは言い難く、なるほど反論には一理あるのかもしれない』と思ったのを覚えています。まあ、詳しい特許権の内容も裁判の書面の内容も知らないので、本当にそういう争点だったのかは不明ですが。

 そして今回、任天堂は請求額を44億円から49億5000万円に増額したとのことですが、その理由についてコロプラ側の発表によれば「本件訴訟の提起後の時間経過によって請求金額を追加した」となっています。
 普通に考えれば、提訴後も白猫プロジェクトで特許権を侵害し続けており、そのため請求額を増額したのだろうということになりますが……。

 問題は【なぜ今のタイミングで請求額を増額したのか】という点です。

 裁判の請求額を増額する手続は『訴えの追加的変更』などといいます。この場合、裁判所に追加で増額分の印紙を納付する必要があります。
 今回の報道では裁判の請求額が44億円から49億5000万円に増額されたとのことです。請求額が44億円の場合の印紙額は982万円で、49億5000万円の場合は1092万円ですので、任天堂としては今回の手続で差額の110万円を追加で納付しなければなりません。
 任天堂にすれば110万円の追納はさしたる負担ではないかもしれませんが、普通に考えれば大金です。

 ここで報道の裏を推察すると、以下の2点が浮かび上がります。

①任天堂としては和解で解決する意思がない。
②裁判が結審に近い段階にきている。

 ①任天堂としては和解で解決する意思がないという点についてですが、和解の場合、「訴訟費用は各自の負担とする」という条項が設けられることが一般的です。これは具体的にいうと、任天堂が裁判するに際して納付した印紙額はすべて任天堂の負担とするということになります。
 印紙は提訴時に裁判所に納付しているのでもともと原告(任天堂)が負担しているのですが、判決で勝訴した場合には勝訴の程度に応じて被告(コロプラ)の負担とされます。被告の負担とするというのは、その分の印紙額を被告から回収できるということです。
 そうすると、もし任天堂が和解の可能性も考えているのであれば、和解したら自分の負担となる印紙額を110万円も増やすような手続をわざわざする理由がありません。それゆえ、任天堂としては、もう和解するつもりはないから印紙額を増やす手続をしたのだろうと考えられるわけです。

 ②裁判が結審に近い段階にきているという点についてですが、これは単純な推測です。
 もし任天堂が請求額を増額する手続をするなら、複数回に分けてするよりも1回で済ませるのが合理的だろうということです。反対に、今回請求額を増額したということは、任天堂としてはこれ以降は請求額を増額することはないと予測されます。
 ついでにいうと、任天堂としては、裁判所が任天堂勝訴の心証を持っていると判断している可能性もあります。もし裁判の過程で裁判所の心証が芳しくないと思われるようであれば、あえて請求額を増額しないとする選択もあり得るからです。

 そんなわけですので、冒頭でご紹介した報道は、もうすぐこの裁判が終わるだろう(もうすぐといっても最低で数か月はかかるでしょうが)、ついでにいうと任天堂の勝訴である可能性が高い、という情報を暗に含んでいると読むことができるわけです。恐らくここら辺が投資家にとって重要な情報となり、ニュースバリューがあるということなのでしょう。
 まあ、裏の裏を読んで、実はまだ裁判は中途で和解協議も継続しているが、コロプラがなかなか妥協しないため、任天堂から牽制として請求額の増額をした(「任天堂としては和解に応じないならいつでも請求額を増額する用意がある」というプレッシャーをコロプラにかけた)、というのが真相という可能性もあります。「本件訴訟の提起後の時間経過によって請求金額を追加した」という理由付けも、特に裏がないことを強調しているように思えなくもありません。ただ、これはコロプラからの発表内容なので、上述した裏事情を推察すると「本当に理由はそれだけなのか?」という疑念が残りますが……。

この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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