報道で見かける法律用語

 先日ニュースを読んでいて、「あ、馴染みの薄い法律用語なのに正確に使われているなあ」と感心したことがあります。

 社会で生活している以上は誰だって法律とは無縁でいられることはないのですが、実際に法律を読んだことがある人がほとんどいないように、あまり法律用語というのは馴染みがないものだと思います。「売買」、「贈与」、「賃貸借」といったものは日常生活でもよく使うでしょうけれども、「使用貸借」、「先取特権」などとなると法学部に進学しない限りはなかなか目にしない単語でしょう。

 法律は分かりやすさよりも正確性を重視して作成されますが、時代の変化でしょうか、最近は法律もできる限り分かりやすくするようにという流れになっていると感じます。文語体が口語体に変更されたり、これまで難解な漢字の法律用語が平易なものに変更されたりすることもあります。
 例えば、私が司法試験の勉強をしていた頃は、「囲繞地」という法律用語がありました。これは「いにょうち」と読むのですが、今では法律から姿を消し、代わりに「他の土地に囲まれて公道に通じない土地」と記載されています(民法210条1項)。ただ、これはまさしく文字どおりの意味なのですが、かえって冗長で使いにくいこともあってか、結局いまでも実務では「囲繞地」という単語が使用されているようです。

 日常で使用する言葉と同じなのに、意味が全く違うという法律用語もあります。
 例えば、「善意」と「悪意」という用語があります。これは、普通であれば「善意=善良な心」、「悪意=あくどい心」という程度の意味ですが、法律用語では「善意=知らないこと」、「悪意=知っていること」という意味で使われており、字面からはまったく想像もつかない感じになっています。しかもこれ、使用頻度が結構多いです。いわゆる過払金の請求は、もう少し厳密な法律用語でいえば、「悪意の受益者に対する不当利得返還請求」というものになり、これに対して貸金業者側から「悪意の受益者ではなく善意の受益者である(自分が不当に利益を得ているとは知らなかった)」という反論がなされることがままあります。

 ニュースを見ていて一番気になる誤用は、「被告」と「被告人」の混用です。どちらも訴えられている立場の人であることは同じですが、被告は民事裁判の、被告人は刑事裁判の用語です。
 ときどき報道で事件に関する弁護士のインタヴューが引用されていて、その弁護士の発言中にも被告と被告人を誤用しているケースが見られます。弁護士なら間違えるはずがないのになぜこうなっているのだろうと疑問に思っていたのですが、風の噂に聞くところによると、記者が報道向けに分かりやすく(?)するために、弁護士の発言中の言葉を修正することがあるそうです。記者の方々もいろいろと苦心しながら記事を作成されているようなので、きっと考えがあってのことだと思いますが、報道における法律関係の記事について法教育の観点からより良い方向に進んでいくことを願います。

この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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