裁判報道の見方 ~木下優樹菜氏のタピオカ裁判の報道

 去る10月27日に以下のようなニュースがありました。

『木下優樹菜さん「タピオカ裁判」出廷せず、40万円の支払い言い渡される』
https://news.yahoo.co.jp/articles/ba65f67d8b7e03a1db120730adb4f9909446f2cc

 さて、このニュースに対して、以下のような批判をネット上で目にしました。
 ・裁判に出廷しないなんて反省の色が見られない。
 ・欠席裁判ならもっと高額を認めても良かったのではないか。

 これらは、どうも上記ニュースの標題に釣られたように思われます。
 ニュースの本文を読むと以下のようになっています。

「27日、東京地裁(澤村智子裁判長)で開かれ、被告側に40万円の支払いなどの判決が言い渡された。この日、木下さんは出廷しなかった。」

 つまり、判決言渡しの日に裁判所に出廷しなかったという事実をもって、ニュースの標題を『木下優樹菜さん「タピオカ裁判」出廷せず、40万円の支払い言い渡される』としたようです。

 しかし、判決言渡しの日に出廷しないのは、むしろ普通です。大多数の裁判では判決言渡し期日に当事者本人も代理人弁護士も出廷しません。後で裁判所から判決書を窓口で受け取って初めて判決の内容を知ることがほとんどです。
 したがって、判決言渡しの日に出廷しないということは、極めて一般的なことであって、それ自体にニュースバリューは一切ありません。それなのにわざわざ標題に「出廷せず」と捻じ込んだのは、何らかの意図を感じさせるものです。

 また、判決言渡しの日だけ出廷しなかったのか、それともずっと裁判に出廷していなかったのか、上記のニュースだけでは分かりません。
 それで過去の報道をざっと調べてみたところ、昨年9月に第一回口頭弁論期日があり被告は争う姿勢だったとのことなので、いわゆる欠席裁判というわけではないようです。欠席裁判ならもっと早く終わっているでしょうから。
 実際のところ、木下氏は代理人弁護士に依頼したと思われ(その場合は代理人弁護士のみが出廷するので、その意味では本人は出廷したことはないでしょう)、約1年弱にわたり裁判で争った結果、1000万円の請求のうち40万円が認容されたということなのでしょう。

 いずれにしろ、判決言渡しの日に出廷しないという普通の事実を、わざわざ誤解を招くような形でニュースの標題に入れ込んだことで、新たに見当外れな誹謗中傷を招いたといえます。他のニュースの標題には「出廷せず」という文字はないので、当該ニュース記事を作った記者(スポーツ新聞の記者?)の判断で入れたと思われますが、報道の姿勢に疑問無しとはいえません。

この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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