昇進を断った場合の懲戒処分の可否

会社側の労働事件を主に扱う向井蘭弁護士(@r_mukai)がツイートした内容が反響を呼んでいるとのニュースを読みました。
ツイートの内容は以下のようなものです。

「最近、昇進・昇格を断ったことを理由に懲戒処分ができないかという相談が増えてきました。店長や課長への昇進・昇格を断る人が増えているそうです」

これに対して、「昇進したけど仕事量や責任が増えた割に給料はほとんど上がらなかった」、「昇進を断ったら僻地の部署に島流しされた」といったリプライがあったとか。

それでは、従業員が昇進を断った場合に、それを理由に懲戒処分はできるのでしょうか?

向井弁護士は私見として「昇進を断っても懲戒処分には直結しない」という意見を述べています。
ここで難しいのは、昇進を業務命令と捉えれば、業務命令に従わないことを理由に懲戒処分をすることはあり得るのですが、これまでの日本社会では昇進はお目出度いことで基本的に誰も断るはずがないという前提で考えられてきたため、実際に昇進を断った場合にどのように対処するのが適当かという議論がされてこなかった、というところです。
今までは年功序列型で昇進すると最終的には何らかのメリットがあることが多かったのに、今は昇進することでデメリットの方が大きくなった、と考える人が出てきています(実際にそうなのかは分かりませんが)。
その上で向井弁護士は、昇進も含めて人事制度自体を見直す必要があるのではないか、と問題提起をしています。

さて、昇進を断った場合の懲戒処分の可否についてですが、まだ裁判例等も集積しておらず運用も定まっていないので、最終的にはケースバイケースという判断になると思われます。
個人的な予測としては、その従業員を昇進させることが会社の業務上必要とされる場合には、それを拒否したことによる懲戒処分は妥当とされる、他方で、従業員の昇進がいわゆる恩恵的な措置であれば、それを拒否したとしても懲戒処分は妥当ではない、というような傾向になるかと思われます。

いずれにしろ、新しい類型の労働問題として、今後増えていくかもしれません。

この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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