裁判で契約書なしで2600万円の未払い工事代金の92%である2400万円を回収したケース

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事案の概要

北海道から東京のゼネコン会社であるY社に公共工事が発注され、A社はY社からその下請け工事を受注しました。

その後、工事の途中でY社の現場代理人であるS氏から追加工事を発注されました。

そして、全ての工事が完了しましたが、Y社は追加工事は発注していないなどとして追加工事分を含めた工事代金2600万円の支払いを拒否しました。

なお、追加工事分については正式な請負契約書が作成されていませんでした。

当事務所の強み

普通に考えると、S氏はY社の代理人として追加工事を発注していたのだから、Y社とA社の間には追加工事の合意があったということになります。

そして、仮にS氏が独自の現場判断で追加工事を発注していたとしても、法的には「表見代理」という主張をすることが考えられます。

「表見代理」というのは、代理人が代理権を超える行為(無権代理)をしても、それが正当であると信じることがやむを得ないような場合には、代理権を超える行為でも有効になるというものです。表見代理が成立すれば、Y社とA社との間で追加工事の発注が認められることになります。

しかし、当初発注分の請負契約書を読み込むと、「現場代理人による追加工事の発注にはY社の書面による事前承認が必要である」というような規定がありました。

そして、A社によればY社からはそのような書面は出されていないとのことでした。

そうすると、事前にY社の書面が出されていない以上、S氏が代理権を超える行為(追加工事の発注)をしたことを正当であると信じることがやむを得ないとは認められず、表見代理が成立しない可能性が高いと判断しました。

そこで、S氏は法的には代理人ではなく(現場代理人というのは工事現場の役職名に過ぎない)、使者であると主張することにしました。

使者というのはいわば伝言役に過ぎないので、追加工事は法的にはY社からA社へ直接発注したということになります。

そうして提訴したところ、Y社には東京の弁護士が就き、S氏による無権代理であるため追加工事に関する請求は認められないなどと主張してきました。

それに対して、当方は表見代理を主張するものではない、S氏は代理人ではなく使者に過ぎないなどと反論し、S氏が使者に該当する事情を強く論じました。

解決結果

一審で尋問手続まで実施した上で、裁判所からは基本的に当方の請求を認める旨の心証が開示されました。

ただ、追加工事分については請負契約書がなく工事単価が明確でないものもあったことから若干減額され、請求額2600万円の92%である2400万円をY社が支払うことで和解が成立しました。

他の弁護士との違い

同じ工事でA社以外にもY社から下請けを受注していた業者が複数あり、裁判の途中で他に業者(Z社)が同様にY社に対して裁判していることが判明したので、お互いの裁判の情報を交換することになりました。

Z社の裁判とは担当裁判官は異なりましたが、Z社の代理人弁護士は表見代理に基づいて訴訟提起したため、Y社からはやはり事前に書面が無かったことを反論されて、裁判官からはZ社の請求について消極的な心証を示されて困っているとこぼしていました。

結局、当方の裁判が先に解決したので、その後のH社の裁判の経過は分かりません。 このように、弁護士が提訴する際の法的構成をどうするかで結果が大きく変わることもあります。

この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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