ご依頼者様の不倫を原因とする離婚裁判で慰謝料150万円・財産分与600万円の請求に対して財産分与320万円のみで解決したケース

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事案の概要

Aさんは結婚歴10年でしたが、1年前から不倫をしてしまい、それが妻にばれることとなり、妻は家を出ていきました。

その後、妻の依頼した弁護士から離婚を請求する通知書が届いたため、Aさんは当事務所に相談に来られました。

妻との離婚協議は条件面で折り合いがつかず、調停でもまとまらなかったため、妻から離婚訴訟を提起されました。訴訟提起時における妻の請求内容は、慰謝料として150万円、財産分与として600万円でした。

なお、その間に妻はAさんの不貞相手に対して不倫慰謝料200万円を請求しており、不貞相手はそれを支払いました。

当事務所の強み

妻側の請求のうち慰謝料については、妻は既に不貞相手から慰謝料200万円を受け取っています。

これによって妻の精神的損害は填補されているので、重ねてAさんに慰謝料を請求することはできないと主張しました。

次に、財産分与について、基準時がいつになるかが問題となりました。

基準時とは、財産分与を算定する際にいつの時点の財産を計上するかという問題です。例えば、2022年1月1日が基準時であれば、同日時点の預金残高を計上して財産分与を算定することになります。

基準時は原則として別居日になります。

ところが、妻側は同居していた頃(別居日より1か月前)を基準時として主張していました。というのも、別居直前に妻はAさんの口座から200万円を引き出していたため、別居日だとAさんの預金残高が減ってしまい、財産分与の額が少なくなってしまうからです。

反対に、当方からは別居日が基準時であるとした上で、別居直前に妻がAさんの口座から引き出した200万円は妻の財産として計上すべきであると主張しました。また、仮に妻側の基準時を前提とする場合には、基準時後に引き出した200万円は財産分与の前渡しとして充当すべきであると反論しました。

しかし、その後の経過で妻側の財産資料もすべて開示された結果、どちらの基準時でも最終的な財産分与の額は大差ないことが分かりました。

そのため、問題は妻がAさんの口座から引き出した200万円をどうやって清算させるかになりました。

この点、裁判が進行しているうちに、裁判官の心証としては「基準時前に妻が引き出した預金は妻の財産として計上する」よりも「基準時後に妻が引き出した預金は財産分与の前渡しとして充当する」の方が認めやすいということがうかがわれました。

そして、当方で各基準時での財産分与額をシミュレートした結果、妻側の基準時を前提に主張を展開する方がAさんにとって100万円近く得策であるという結論になりました。

そこで、「紛争の早期解決のため基準時については妻側に譲る」という建前で、裁判官の認めやすい方向に主張をシフトさせることにしました。

解決結果

Aさんにとって有利になるように基準時を妻側にあわせた結果、基準時後の引出金についても清算するという前提で裁判所から300万~350万円での和解を打診され、最終的に320万円で和解が成立しました。

当初の妻側の請求額合計750万円から430万円も減額しての解決でした。

ちなみに、本件では調停時に裁判所から和解案として400万円を提示されていました。その和解案を当方が蹴ったため訴訟に至ったのですが、調停時の和解案よりもさらに80万円減額した内容で解決できました。

他の弁護士との違い

財産分与が主な争点となる場合、基準時をいつにするかは慎重に検討する必要があります。 その上で、裁判官の心証を敏感に察知し、ご依頼者様にとって有利になるように基準時を修正するというのは、離婚訴訟の豊富な経験がなければ難しいでしょう。

この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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