婚姻費用・養育費のポイント

法律上、夫婦である限りお互いに扶養義務を負っています。
それは、収入の多い方から収入の少ない方へ生活費を渡すという方法で具体化されます。その生活費を婚姻費用といいます。
また、離婚後は夫婦間の扶養義務はなくなりますが、親子関係はなくなりません。
したがって、離婚後は婚姻費用ではなく養育費として、子ども達の生活費を負担しなければなりません。
ここでは、婚姻費用と養育費について実務上よく問題となる点についてご説明します。

目次

婚姻費用・養育費の算定方法

具体的な算定式もありますが、ここでは簡易な算定方法として、算定式に基づいて作成された算定表についてご説明します。

算定表は以下の裁判所のサイトで公開されています。

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・養育費の場合は表1~表9を、婚姻費用の場合は表10~表19を見ます。

・参照する表は、子の人数と年齢で決まります。

例えば、養育費で子が2人(16歳と10歳)の場合、養育費・子2人表(第1子15歳以上、第2子0~14歳)の表4を参照します。

・表の左端の数字は支払う側の年収額です。左の数字が給与所得者の場合、右の数字が自営業者の場合です。

・表の下端の数字は支払ってもらう側の年収額です。下の数字が給与所得者の場合、上の数字が自営業者の場合です。

・それぞれの年収の交差する個所が含まれるゾーンに記載されている金額が月額となります。

例えば、表2で、支払う側が給与所得者で年収600万円、支払ってもらう側が自営業者で年収300万円の場合、交差する個所が6~8万円のゾーンの最上段になるので、月額8万円が相当となります。これは子2人分の養育費の月額です。

年収額は、給与所得者の場合は源泉徴収票等で確認します。

転職したばかりの場合は、転職後の雇用契約書や給与明細から年収額を計算することがあります。

自営業者の場合は、基本的には確定申告書に記載の「課税される所得金額」で確認します。

ただし、基礎控除や青色申告特別控除など現実に支出していない控除金額があれば、所得金額に加算します。

支払終期をいつとするか

婚姻費用または養育費をいつまで支払うかという問題です。

婚姻費用の場合は、「離婚成立または別居解消まで」とされるのが一般的です。

仮にそのような取り決めをしなかった場合でも、離婚した後は婚姻費用の請求は当然に認められなくなります。

養育費の場合は、ケースバイケースとなります。

一般的には、「子が20歳に達する月まで」とすることが多いです。

「子が大学を卒業する月まで」というような定め方を希望されることがありますが、これだと具体的にいつまでなのか明確ではありません。浪人した場合には大学に入学してないので養育費は払わなくて良いのか、留年した場合にはいつまでも留年して養育費の支払いが続くのかなどといった問題が生じるため、このような定め方は今の実務では避けるのが通例です。

そのため、例えば4年制の大学卒業までを考えるのであれば、「子が22歳に達した後の最初の3月まで」というような定め方をすることになります。

金額の増減額はできるのか

婚姻費用や養育費の金額は、一度決めた後は原則として一方的に変更することはできません。

ただし、婚姻費用または養育費の金額を合意した当時あるいは審判で決められた当時に予期できなかった事情の変更が生じた場合には、その金額を増額または減額することができるとされています(民法880条)

逆にいえば、婚姻費用や養育費の増額または減額を請求するには事情の変更が必要ということになります。

したがって、例えば離婚後1年もしないうちに養育費の減額の請求をしても、基本的には事情の変更がないとして減額は認められません。

実務上でよく問題となるのは、離婚した後で再婚した場合です。

特に子の同居親(養育費を貰う側)が再婚して再婚相手と子が養子縁組をした場合には、子の一次的な扶養義務は別居親(養育費を払う側)から再婚相手に移るため、別居親の養育費の支払義務はなくなります。

よって、この場合には事情の変更があったとして、養育費の免除が認められます。

なお、これは再婚相手が子と養子縁組をした場合です。再婚しただけで養子縁組まではしていない場合は、事情の変更には該当しません。

また、いつから増減額の効果が生じるかという点についてですが、原則として請求時と解されています。

例えば、養育費の減額調停を申し立てた場合、調停申立日以降の分は減額されますが、調停申立日より前の分まで遡って減額されることはありません。

ただ、遡っての増減額を認める例もあるので、最終的にはケースバイケースとなります。

不払いとなった場合の対処法

婚姻費用または養育費が不払いとなった場合、相手方の財産を差し押さえることが最も効果的です。

このとき、毎月継続して婚姻費用等の差押えをするため、基本的には相手方の給与を差し押さえることになります。

まず、差押えをするためには「債務名義」というものが必要です。

調停や審判で決めた場合には、調停調書や審判書が債務名義となります。

また、強制執行認諾文言がある公正証書も債務名義となります。よく離婚協議書を公正証書にした方が良いのかという質問がありますが、公正証書にする目的はこの差押えができるようにするためです。

なお、公正証書ではないにしても、婚姻費用や養育費について文書で合意しているのであれば、その支払いを請求するときは調停ではなく訴訟になります。

調停はあくまで金額の合意ができていない場合に家庭裁判所に金額を決定して欲しいという手続ですので、既に合意して決定した金額の支払いを請求するときは地方裁判所または簡易裁判所で訴訟の手続による必要があります。

次に、給与を差し押さえるためには、相手方の勤務先を特定する必要があります。

ここで問題となるのが、相手方が転職した場合です。特に養育費の支払いは10年以上の長期にわたる場合がありますが、そうなると途中で相手方が転職をしてしまい、それ以降養育費が支払われなくなったというケースもあります。

そのような場合でも、「第三者からの情報取得手続」を利用することで、相手方の現在の勤務先を調査できる場合があります。

ただ、第三者からの情報取得手続を利用するためには、半年以内に強制執行したけど回収できなかったとか、先に財産開示の手続を経なければならないなど、専門家でない人が行うには若干ハードルの高い手続となっています。

まとめ

離婚問題となった場合、初動で婚姻費用の調停を申し立てておくことで、離婚の協議や調停が長引いたときでも並行して婚姻費用の支払いが受けられるようになります。

もし婚姻費用の請求が遅れた場合、遅れた分だけ遡って請求することができないため、初動で調停申立てまですることが肝心です。

養育費については、早く離婚したいがために相場よりも高い金額で合意してしまうと、後になって減額しようとしても事情の変更が認められず、ずっと高い金額を支払わなければならなくなります。

婚姻費用にしろ養育費にしろ、離婚問題に習熟している弁護士に相談して対応を決めることが重要です。

この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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