養育費を相場より高くすることのメリット・デメリット

 家事事件の処理にも流行り廃りというものがあります。

 例えば、離婚で子の親権者で争いが起きた場合、昔は片方の親を親権者、他方の親を監護者にするという折衷的な解決が取られたことがあったそうです。この場合、実際に子と一緒に生活するのが監護者なので、母親が監護者、父親が親権者となるケースが多かったのでしょう。
 しかし、子の諸々の手続の際には監護者ではなく親権者の同意が必要となり、そうすると子と別居している親に同意を求めるのがいちいち煩雑だ、場合によってはなかなか同意してくれないこともあるということで、今ではこのような解決は望ましくない処理とされています。

 その次に、割と新しいスキームとして、「養育費を大目に設定する」というのがありました。これは、慰謝料や財産分与などの解決金の金額を少なめにして、その代わりに養育費を相場より高くするというものです。特に解決金が分割払いとなるときに、こうした方が便利ではないかと考えられたものです。
 どうして便利なのかというと、分割払いが滞納されたときに相手方の給与を差し押えることがありますが、養育費の差押えと解決金の差押えを比べると、養育費の差押えの方が優遇されているためです。というのも、解決金の差押えは給料の4分の1までなのに対し、養育費の差押えは給料の2分の1までできるので、分割払いが滞ったときのことを考えると、むしろ養育費に一本化した方が有用であるという考え方までありました。

 しかし、実際にこういった処理をしてみると、後々になって不都合が生じるようになりました。その理由は、養育費の金額は事後的に変更されうるという点です。
 例えば、子を引き取った親が再婚して、新しい配偶者と子が養子縁組をすると、扶養義務は養親に移るので、別れた親は養育費を支払う義務がなくなります。その場合、養育費を0円にする請求ができるようになるわけですが、そうすると慰謝料や財産分与の分も見込んで養育費を高く設定したのが水の泡となってしまいます。
 そんなわけで、やはり養育費はきちんと相場どおりに決めて、解決金の支払確保はそれとは別に考えましょうというのが、今のスタンダードになっています。原則に回帰しただけですが。

 このように、家事事件も対立が深い事案が出るたび、どうすればうまく解決できるのかを、調停委員会や弁護士が頭を捻って考えています。
 個人的に、次に来る流行り廃りは面会交流に関するものではないかと推察しているのですが、はてさてどうなることでしょうか。

この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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