他の相続人による預貯金の「使い込み」が発覚!取り戻すための法的手段とは?

「亡くなった親の預金通帳を見たら、亡くなる直前に多額の不自然な引き出しがある…」

「親と同居していた兄に聞いても、『生活費だ』の一点張りで、明細を見せてくれない」

「認知症だった母のキャッシュカードを、姉が勝手に使っていたようだ…」

遺産分割協議を進める中で、このような他の相続人による預貯金の「使い込み」疑惑が浮上することは、残念ながら少なくありません。

これは、大切なご家族への裏切り行為であり、強い怒りや悲しみを感じるのは当然のことです。

しかし、感情的に相手を問い詰めるだけでは、問題は解決しません。使い込まれた可能性のある大切な財産を取り戻すためには、冷静に、法的な手続きに沿って、証拠に基づいて行動することが何よりも重要です。

この記事では、相続財産の使い込みが疑われる場合に、札幌市で財産を取り戻すための具体的な法的手段と、そのために必要な準備について、相続トラブルに強い弁護士が解説します。

目次

まずは冷静に!「使い込みかも?」と思ったら絶対にやってはいけないこと

使い込みの疑いを持ったとき、怒りのあまりすぐに相手を問い詰めたくなる気持ちはよく分かります。しかし、それは逆効果になる可能性があります。

絶対にやってはいけないこと:

  • 証拠がないまま感情的に相手を問い詰める: 相手が警戒し、通帳や資料を隠したり、言い逃れのための嘘のストーリーを考えたりする時間を与えてしまいます。
  • 遺産分割協議書に安易に署名・押印する: 「この協議書に記載された以外の財産については、互いに請求しない」といった清算条項があると、後から使い込みを主張するのが困難になる場合があります。

問題解決の第一歩は、相手に気づかれる前に、客観的な証拠を確保することです。

ステップ1:証拠を集める|すべての基本は「預金の取引履歴」

使い込みを立証するための最も強力な証拠は、亡くなった方(被相続人)の銀行口座の「取引履歴(入出金明細)」です。

金融機関で取引履歴を開示請求する方法

相続人であれば、被相続人が口座を持っていた金融機関(銀行、信用金庫、JAなど)の窓口で、取引履歴の開示を請求することができます。これは、最高裁判所の判例でも認められた相続人の正当な権利であり、他の相続人全員の同意がなくても、相続人の一人から単独で請求することが可能です。

  • 請求できる期間: 一般的に、金融機関は過去10年分の取引履歴を保管しています。
  • 必要な書類:
    • 被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本(除籍謄本)
    • ご自身が相続人であることが分かる戸籍謄本
    • 請求者の本人確認書類(運転免許証など)
    • 請求者の実印と印鑑証明書
    • 金融機関所定の開示請求書※ 金融機関によって必要書類や手続きが異なるため、事前に電話で確認しましょう。

取引履歴から「不自然な出金」を洗い出す

開示された取引履歴を精査し、以下のような「不自然な出金」をリストアップします。

  • 亡くなる直前の時期に集中している高額な出金
  • 端数のないキリの良い金額(10万円、50万円など)の頻繁な引き出し
  • 被相続人の生活レベルや健康状態からは考えにくい高額な支出
  • 特定の相続人の口座への送金履歴

その他の補強証拠

取引履歴に加えて、以下のような資料も、使い込みを裏付ける重要な証拠となり得ます。

  • 被相続人の医療記録や介護記録
    「〇年〇月頃は入院しており、自分で現金を引き出せる状態ではなかった」ことを証明できます。特に被相続人が認知症であった場合、判断能力が不十分であったことを示す医療記録(例:長谷川式認知症スケールの点数が低い記録など)は、「本人の同意があった」という相手方の最も多い反論を崩すための決定的な証拠となり得ます。
  • 施設の入居契約書や領収書
    施設費用が口座引き落としになっている場合、「別途現金が必要だった」という相手の主張を崩せます。
  • 相手の言動を記録したメールや録音
    話合いの当初は使い込みを認めていたも、後になって否定に転じる場合があります。そのため、使い込みを認めた場合はそれが客観的な記録に残るようにすると良いでしょう。

ステップ2:法的手段を選択する|最新の法改正を踏まえた3つのアプローチ

証拠がある程度集まったら、いよいよ財産を取り戻すための具体的な法的アクションに移ります。
使い込みがいつ行われたか(被相続人の生前か死後か)によって、最適なアプローチが異なります。

方法1:遺産分割協議・調停で解決する(主に相続開始「後」の使い込みに有効)

2019年7月の民法改正により、相続開始後(お亡くなりになった後)の使い込みは、家庭裁判所の遺産分割調停という一つの手続きの中で、他の遺産とまとめて解決を図ることが可能になりました。

これは民法第906条の2という新しいルールによるもので、最大のポイントは、使い込みをした相続人本人の同意がなくても、他の相続人全員が合意すれば、使い込まれた財産を遺産に含めて分割内容を計算できる点です。

これにより、従来のように別途地方裁判所に訴訟を起こす必要がなくなり、より迅速かつ効率的に問題解決を目指せるようになりました。

方法2:不当利得返還請求訴訟を起こす(主に相続開始「前」の使い込みに有効)

被相続人の生前に行われた使い込みについては、遺産分割手続きとは別に、地方裁判所に不当利得返還請求訴訟を提起するのが基本です。

法的には、生前の使い込みによって被相続人が有していた「不当利得返還請求権」等を、他の相続人が法定相続分に応じて引き継ぎ、使い込んだ本人に対して返還を求める、という構成になります。

この主張に対し、相手方からは「あれは被相続人から許可を得ていた」「生前贈与だった」といった反論がなされるのが通常であり、その有効性が裁判での主な争点となります。

方法3:損害賠償請求訴訟を起こす

相手の行為が悪質であった場合などには、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起することも考えられます。この場合、相手の故意・過失を立証する必要がありますが、弁護士費用相当額などを上乗せして請求できる可能性があります。

【比較表】どの手続きを選ぶべき?

手続き主な対象メリットデメリット
遺産分割協議・調停相続開始の使い込み使い込み問題と他の遺産分割を一つの手続きで効率的に解決できる
・比較的、費用や時間がかからない
・相続開始の使い込みは原則として対象外
・他の相続人の合意が得られない場合は利用できない
不当利得返還請求訴訟相続開始の使い込み・使い込みの事実を法的に確定させ、判決で返還を命じてもらえる
・相手の合意は不要
・別途、地方裁判所に訴訟を起こす必要があり、時間と費用がかかる
・厳格な証拠に基づく立証が必要

どの手続きが最適かは、使い込みの時期や証拠の状況によって異なります。弁護士と相談の上、最適な戦略を立てることが重要です。

無視できない「時効」のリスク|発生時期で変わるルールに要注意!

使い込まれた財産を取り戻す権利には、「消滅時効」があります。この期間を過ぎると、たとえ証拠が揃っていても請求できなくなってしまいます。

非常に重要な点として、時効のルールは2020年4月1日の民法改正で変更されており、いつ使い込みがあったかによって適用されるルールが異なります。改正前の使い込みには古いルールが適用される「経過措置」があるため、注意が必要です。

請求権の種類使い込みの発生時期消滅時効期間
不当利得返還請求権2020年3月31日以前権利を行使できる時から10年
2020年4月1日以降①権利を行使できることを知った時から5年、または、 ②権利を行使できる時から10年のいずれか早い方
不法行為に基づく 損害賠償請求権2020年3月31日以前①損害及び加害者を知った時から3年、または 、②不法行為の時から20年
2020年4月1日以降①損害及び加害者を知った時から3年、または、 ②不法行為の時から20年

※人の生命・身体を害する不法行為の場合、2020年4月1日以降は「知った時から5年」となります。

このように、時効の判断は専門的な知識を要します。「おかしいな」と思ったら、時効期間を正確に把握し、適切な措置を講じるためにも、一日も早く弁護士にご相談ください。

「使い込み」と「寄与分」の複雑な関係

使い込みを追及すると、相手方から「自分は親の介護を一身に引き受けてきた。これはその対価であり、むしろ寄与分を認めてもらうべきだ」という反論がなされることが、非常によくあります。

こうなると、問題は「失われた財産」と「貢献の評価」という2つの側面を持つことになり、当事者同士での解決は極めて困難になります。

このような複雑な状況こそ、法律の専門家である弁護士が介入し、双方の主張を法的に整理して、妥当な解決点を探る必要があります。

札幌の弁護士が、あなたの財産を取り戻すためにできること

預金の使い込み問題は、証拠収集から法的主張まで、高度な専門知識と交渉力が求められます。何より、ご自身で親族と直接対決することは、精神的に計り知れない負担となります。

  • 弁護士による証拠収集: 弁護士会照会制度(弁護士法第23条の2)などを利用し、ご本人では開示を受けられない資料(例:入出金明細、介護認定調査票など)の収集をサポートします。※回答義務はなく、開示されない場合もあります。
  • 冷静な代理交渉: あなたの代理人として、感情的な対立を避け、法的な根拠に基づいて相手と冷静に交渉します。
  • 最適な法的手続きの選択と実行: ご相談内容を詳細に分析し、使い込みが相続開始後であれば改正民法を活用した遺産分割調停を、相続開始前であれば不当利得返還請求訴訟を提起するなど、最も効率的かつ効果的な法的手続きを選択し、遂行します。また、複雑な時効の経過措置を正確に判断し、依頼者様の権利が失われることのないよう万全を期します。

泣き寝入りする前に、まずは一度、専門家である弁護士にご相談ください。葛葉法律事務所では、あなたの代理人として、冷静かつ戦略的に問題解決にあたります。

まとめと次のステップ

他の相続人による預金の使い込みは、許されることではありません。しかし、それを取り戻すためには、感情を抑え、法的なステップを着実に踏む必要があります。

  1. まずは証拠確保(特に取引履歴)
  2. 時効を意識し、早期に行動する
  3. 複雑な交渉や手続きは、弁護士に任せる

この3つのポイントを念頭に、ご自身の正当な権利の実現に向けて、勇気ある一歩を踏み出してください。

この記事で解説した内容は、あくまで一般的なケースです。

個別の状況によっては、より複雑な手続きや判断が必要になることも少なくありません。

もし少しでもご不安な点があれば、お一人で悩まずに、法律の専門家である弁護士にご相談ください。

葛葉法律事務所では、初回相談を無料で承っております。

あなたのお悩みに寄り添い、最適な解決策をご提案いたします。

まずはお気軽にお問い合わせください。

監修:葛葉法律事務所

この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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