相続人に未成年者がいると遺産分割協議が進まない?「特別代理人」の選任手続きを札幌の弁護士が解説
「夫が亡くなり、相続人は私(妻)と、まだ幼い子供たちだ」
「未成年の子供がいる場合、遺産分割協議はどう進めたらいい?」
「私が子供の代理人として、協議書にサインしてもいいのだろうか?」
相続人の中に未成年者が含まれている場合、その遺産分割協議は通常通りに進めることができません。
良かれと思って親権者であるお母様(またはお父様)が代理で署名・押印しても、その遺産分割協議は法的に有効な合意とはならず、後から取り消される可能性があります。
この記事では、札幌市にお住まいの皆様へ、相続人に未成年者がいる場合の正しい手続きと、そのために不可欠な「特別代理人」の選任について、最新の法律実務に基づき、弁護士が分かりやすく解説します。
なぜ?未成年者がいると遺産分割協議がストップする2つの理由
未成年者がいる場合に遺産分割協議が進められないのには、法律上の明確な2つの理由があります。
1. 未成年者は単独で法律行為ができない
遺産分割協議は、相続人全員の合意によって成立する重要な「法律行為(契約)」です。
しかし、未成年者は、社会経験や判断能力が未熟であることから、単独で有効な法律行為を行うことができません。これは、未成年者が不利な内容の契約を結んでしまわないよう、民法で保護されているためです。親の同意なく行われた契約は、後から取り消すことが可能です。
2. 親権者(親)も代理人になれない「利益相反」
「では、親権者である私が代理人になればいいのでは?」と考えるのが自然ですが、ここが最大の落とし穴です。
相続において、親権者と未成年の子は、多くの場合「利益相反」の関係にあります。
利益相反とは? : 一方の利益になると、もう一方の不利益になる関係のこと。
具体例 :
- 相続人:母(妻)と 未成年の子
- 遺産分割協議で、母の取り分を多くすれば、子の取り分は少なくなります。
- 逆に、子の取り分を多くすれば、母の取り分は少なくなります。
このように、母は「自分の利益」と「子の利益を守る立場」という、相反する立場に立ってしまいます。
法律(民法第826条)は、このような利益相反の関係にある親権者が、子の代理人として遺産分割協議を行うことを固く禁じています。これは、親の意図がどうであれ、遺産分割協議という行為の形自体が客観的に利益の対立構造を持つためです(最判昭48.4.24)。このような状況で親が子を代理して行った行為は「無権代理行為」とされ、子に対して法的な効力が生じません。
解決策は家庭裁判所での「特別代理人」の選任
この問題を解決するために設けられているのが、「特別代理人」の選任制度です。
特別代理人とは?
利益相反が生じる特定の法律行為(今回のケースでは遺産分割協議)についてのみ、親権者に代わって未成年者の代理人となる人のことです。家庭裁判所に申立てを行い、選任してもらいます。
- 役割: 未成年者の利益を最大限に守る立場で遺産分割協議に参加し、協議内容が妥当であれば、未成年者に代わって遺産分割協議書に署名・押印します。
- 一時的な代理人: 認知症の方などの「成年後見人」とは異なり、その遺産分割協議が終われば任務は終了する、一時的な(スポットの)代理人です。
誰が特別代理人になるのか?
申立ての際に候補者を立てることができますが、最終的に選任するのは家庭裁判所です。
裁判所は、候補者が完全に中立であり、未成年者の利益のみを考えて行動できるかという点を最も重視します。例えば、候補者が他の相続人から借金をしているなど、中立性に疑いがある場合は不適格と判断される可能性があります。
- 候補者: 相続に利害関係のない親族(おじ・おば等)を候補者にすることも可能です。
- 専門家の選任: 適切な候補者が見つからない場合や、遺産内容が複雑な場合、相続人間で意見の対立がある場合など、高度な中立性・専門性が求められる事案では、家庭裁判所が公平・中立な立場の弁護士や司法書士を特別代理人として選任します。
【札幌家庭裁判所】特別代理人 選任申立ての流れと必要書類
特別代理人の選任は、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。お子様が札幌市にお住まいであれば、札幌家庭裁判所 本庁(札幌市中央区大通西11丁目)が管轄となります。
札幌家庭裁判所における申立ての要約表
| 項目 | 札幌家庭裁判所における詳細 |
| 申立先(管轄) | 札幌家庭裁判所 本庁 |
| 申立人 | 親権者、利害関係人(他の共同相続人など) |
| 主な必要書類 | 1. 申立書 2. 戸籍謄本(被相続人の出生から死亡までの一連のもの、未成年者・親権者のもの) 3. 住民票(特別代理人候補者のもの) 4. 遺産分割協議書(案) 5. 相続財産目録及びその裏付資料(不動産評価証明書、預金残高証明書等) |
| 費用 | 1. 収入印紙:未成年者1人につき800円 2. 連絡用郵便切手:544円(変動の可能性があるため要確認) 3. (該当する場合)裁判所が決定する専門家報酬 |
| 手続き期間の目安 | 申立てから審判まで約1か月から3か月 |
【重要】遺産分割協議書(案)の提出
申立ての際、多くの場合、「遺産分割協議書(案)」の提出を求められます。
これは単なる参考資料ではありません。裁判所が「その分割内容が、未成年者の利益を不当に害していないか」を事前に審査するための最も重要な審査対象であり、この(案)の内容で手続きが進むことになります。
特別代理人が参加する遺産分割協議の注意点
子の「法定相続分」を確保するのが大原則
家庭裁判所および特別代理人は、未成年者の法定相続分を確保することを最優先に考えます。
「母が全財産を相続し、子供たちが大きくなったら渡す」といった内容や、未成年者の法定相続分を大きく下回るような内容の協議書(案)は、子の利益を害するとして、原則として認められません。
解決策 :
- 法定相続分どおりに分割する(案)を作成する。
- もし法定相続分と異なる分割(例:母が自宅不動産を単独で相続する)を望む場合は、その代わりに相応の金銭(代償金)を未成年者の口座に振り込むなど、未成年者が実質的に不利益を被らない内容にする必要があります。
- 遺産の大部分が不動産で代償金の捻出が難しい場合など、「特別な事情」があるときは、その旨を詳細に記した「上申書」を提出することで、裁判所に事情を説明し、法定相続分と異なる分割の許可を求めることも可能です。
複数の未成年者がいる場合の注意点
未成年者の子供が2人以上いる場合、その子供たち同士も利益相反の関係に立ちます。
そのため、原則として、未成年者それぞれに、別々の特別代理人を選任する必要があります。
(例:相続人が母、長男(10歳)、長女(8歳)の場合、長男の特別代理人と、長女の特別代理人の2人を選任する)
【専門家コラム】重要な例外ケース
親権者自身が相続人ではない場合(例:被相続人と離婚している、または相続放棄をした)、親権者は子ら全体との利益相反関係には立ちません。この場合、親権者は複数の未成年者のうち1人については、その法定代理人として遺産分割協議に参加できます。そして、残りの未成年者については、それぞれに特別代理人を選任する必要があります。
【新設】特別代理人が不要となる主なケース
この複雑な手続きですが、法律上、特別代理人が不要となる明確な例外ケースがあります。
- 有効かつ具体的な遺言書がある場合
遺言書によって「札幌市中央区の土地建物は妻〇〇に、A銀行の預金は長男△△に相続させる」というように、全財産の帰属先が具体的に指定されており、遺産分割協議を行う必要がなければ、利益相反行為自体が発生しないため、特別代理人は不要です。(※「全財産を妻と長男に法定相続分で相続させる」といった包括的な遺言では、遺産分割協議が必要となり、特別代理人が必要になります。) - 親と子が同時に相続放棄をする場合
親権者と未成年の子が揃って相続放棄をする場合、両者とも遺産を取得しないという点で利害が一致するため、利益相反は生じません。この場合、親権者が子の代理人として相続放棄の手続きを行えます。(※未成年の子だけが相続放棄をする場合は、親の相続分が増えるため、典型的な利益相反となり特別代理人が必要です。) - 親が相続人ではない場合(かつ未成年者が1人の場合)
親権者が相続人でない場合、その親権者と子の間には利益相反が生じません。子が1人であれば、親権者が法定代理人として遺産分割協議に参加できます。
この手続きを弁護士に依頼するメリット
「特別代理人」の選任手続きは、相続手続きの中でも特に専門的で、裁判所とのやり取りが不可欠です。
- 法的に妥当な遺産分割協議書(案)の作成サポート裁判所の審査基準を踏まえ、ご家族の意向にも沿った協議書(案)を作成します。これにより、一回で裁判所の許可を得られる可能性が高まり、手続きの遅延リスクを回避できます。
- 煩雑な申立書類の作成・収集を代行出生から死亡までの戸籍の収集から申立書の作成まで、複雑な手続きをすべてお任せいただけます。
- 特別代理人候補者への就任による円滑化弁護士がそのまま特別代理人の候補者となることで、中立性・適格性が高いと判断されやすく、選任までの期間短縮が期待できます。
- 相続手続き全体の包括的サポート特別代理人選任だけでなく、その後の遺産分割協議、不動産の名義変更、預貯金の解約、相続税申告まで、相続手続き全体をワンストップでサポートします。
まとめと次のステップ
相続人に未成年者がいる場合、親権者が子の代理人となって遺産分割協議を行うことは「利益相反」となり、法的に有効な合意となりません。
必ず家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申し立て、その代理人を交えて協議を行う必要があります。
手続きを怠ったために、将来お子様が成人したときに「あの遺産分割は無効だ」というトラブルに発展したり、不動産の売却ができなくなったりするリスクを避けるためにも、必ず正しい手続きを踏んでください。
この記事で解説した内容は、あくまで一般的なケースです。
個別の状況によっては、より複雑な手続きや判断が必要になることも少なくありません。
もし少しでもご不安な点があれば、お一人で悩まずに、法律の専門家である弁護士にご相談ください。
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監修:葛葉法律事務所
