調停で認知症の母親の相続分(700万円)を取り込もうとした兄から母親を守ったケース
事案の概要
被相続人:父
相続人:母、子2人(Aさん、Y氏)
Aさんの母親と兄のY氏が同じ弁護士に依頼して、父親の遺産分割調停を申し立ててきました。
ところが、その弁護士は調停で母親の相続分をY氏に譲渡すると説明してきました。
しかし、母親は認知症で施設に入所しており、まともな判断能力はないとAさんは思っていました。
そこで、母親が本心でそのようなことを言うはずがないと調停委員に訴えましたが、調停委員は取り付く島もありませんでした。
そのような経過で、Aさんは当事務所に相談に来られました。
当事務所の強み
恐らく調停委員は、母親とY氏に弁護士が付いているので、まさか弁護士が変なことをするはずがないとして、Aさんの話に聞く耳を持たなかったのだと思います。
しかし、本当に母親が認知症なのであれば、母親から弁護士への委任契約は無効となりますし、そのままの状態で調停を進めることもできません。
そのため、どうにかして調停委員に、母親の認知症の程度について把握してもらう必要がありました。
この点、当職が母親に面会することは弁護士倫理の問題があってできません(相手方に弁護士が付いている場合、弁護士は相手方本人と会ってはいけないとされているため)。
しかし、Aさんは親子なので母親のお見舞いに通っており、それについてはY氏からも特に禁止されていませんでした。
そこで、Aさんに長谷川氏簡易知能評価スケールのやり方を教えて、お見舞いの時に母親に実施してもらい、その様子を動画に撮影してもらうことにしました。
長谷川式簡易知能評価スケールとは、誰でも簡単に認知症の程度を検査できるテストです。用意するのは小物5つ(腕時計やボールペンでOK)なので、準備も大変ではありません。
そうしてAさんが母親に長谷川式簡易知能評価スケールを実施したら点数が4点だったことを、撮影した動画を裁判所で調停委員に見せながら説明しました。
それにより裁判所としても母親の認知症の程度に重大な疑義があるとされ、調査官調査が実施されることになりました。調査の結果、母親は判断能力が低下しており成年後見人を選任する必要があることが裁判所でも確認されました。
解決結果
調査官調査の後、当方から母親の成年後見申立てを行いました。母親には裁判所の選任した新しい弁護士が成年後見人となり、それからはその弁護士が母親の代理人として遺産分割調停に関与することになりました。
そして、母親が自分の相続分をY氏に譲渡する理由も意思もないことが明らかになり、母親は自分の相続分として700万円を取得することができました。
他の弁護士との違い
Y氏の弁護士は、当方から母親が認知症で判断能力が低下していると説明した後、母親が真意で自分の相続分をY氏に譲渡するものである旨の公正証書を作成して証拠として提出してきました。
結局は裁判所の調査官調査によって公正証書自体もなかったことにされましたが、その弁護士が長谷川式簡易知能評価スケールのことを熟知していれば、そのような疑義のある公正証書を作成する前に、母親が認知症であることを確認できたはずです。