なぜ相続問題は弁護士に依頼する必要があるのか

インターネットで「相続」と検索すると様々なサイトがヒットします。
その中には弁護士だけでなく、行政書士、司法書士、税理士、その他(株式会社等)が運営しているものが多くあります。
しかし、相続の紛争について弁護士以外に相談するというのは、運転免許のない乗務員のタクシーに乗ろうとするようなものです。

目次

行政書士と相続

行政書士はその名のとおり行政に関する文書作成を主たる業務とします。例えば、会社が役所に提出する書類の作成などです。
しかし、相続に関してはそのような文書作成は基本的にありません。
相続に必要な遺産分割協議書は行政に関する文書ではありませんし、不動産の登記や相続税の申告については後述するように司法書士や税理士の職分となります。
そして何より、相続で揉めた場合には家庭裁判所での遺産分割調停や地方裁判所での訴訟手続が必要となります。
しかし、行政書士はそのような裁判所での手続については一切関与できません。
よく行政書士のホームページや広告で「相続の実績〇〇件」と喧伝しているのを見かけますが、その実績には調停や登記や税務といった相続の重要な実績は1件も含まれていないのです。
したがって、相続に関して行政書士に相談するメリットは何一つありません。

司法書士と相続

司法書士は不動産や会社関係の登記手続を主な業務としています。例えば、不動産の売買における所有者の名義変更の登記などです。
相続に関しては、遺産の中に不動産がある場合に相続登記をする必要があります。また、遺産の不動産を売却処分して売却代金を相続人間で分割するという場合、その売却で名義変更の登記をする必要があります。
そのような不動産の登記関係については、司法書士に依頼するのが間違いないです。

他方、登記以外の点については司法書士でも取り扱えません。
遺産分割の協議や家庭裁判所での遺産分割調停などについて、司法書士は代理人として活動することはできないのです。
したがって、相続で司法書士に相談する必要が生じるのは、相続の協議が終わった後で登記をするタイミングになります。

なお、一定の資格を有する司法書士であれば簡易裁判所での訴訟手続について代理人として活動することができます。
しかし、相続で訴訟手続が必要となるのは遺産の預金の使い込みが問題となるケースが主で、そのようなケースでは争いとなる金額が高額となることが多く、管轄が簡易裁判所ではなく地方裁判所となります。そして、地方裁判所の訴訟手続について司法書士は関与できません。
また、家庭裁判所の遺産分割調停にも司法書士は代理人として活動できません。

税理士と相続

税理士は、いうまでもなく税務関係を主たる業務とします。例えば、確定申告の手続などです。
相続の場合、実は基礎控除等により相続税がかからないケースも多いです。
しかし、相続税の申告が必要となるケースでは、税理士に依頼する方が簡便です。

ただ、税理士は遺産分割の協議、調停や訴訟については関与できません。
したがって、相続で揉めた場合に税理士は適切なアドバイスはできません。

弁護士と相続

弁護士は、紛争性のある交渉や裁判などについて代理人として活動するのを業務とします。
相続では、遺産分割に関して協議を行い、協議で揉めた場合には家庭裁判所での調停や地方裁判所での訴訟を行って決着する必要があります。
そのような手続について、弁護士は代理人として依頼者の利益のために活動します。
具体的には、裁判所に提出する書面の作成や、裁判所での期日に代理人として出頭するなどといったことをします。

簡単にいえば、相続での揉め事についてトータルでサポートできるのは弁護士だけです。

その他(株式会社等)

以上の有資格者の他に、株式会社等が運営している相続サイトもあります。
弁護士等を紹介するためのいわゆるポータルサイトであれば、そこに掲載されている弁護士等が対応するので、上述した区分がそのまま妥当します。
他方、株式会社等が自身で相続問題に対応するというものであれば、資格も無しに相続問題に関与するというものですから、そのようなサイトは当然ながらお勧めできません。

まとめ

相続で問題となる場合、調停や訴訟も含めてトータルで紛争解決に当たれるのは弁護士だけです。
行政書士や司法書士に相談しても、調停や訴訟になれば結局は弁護士に依頼しなければならなくなるので二度手間な上に費用が余計にかかるので、それなら最初から弁護士に相談する方が良いわけです。
また、行政書士等に相談して、調停や訴訟にならないように調整されてしまうと、結局は自分の希望とは異なる結果を受け入れざるを得なくなる恐れもあるでしょう。もし弁護士に依頼していればもっと自分の希望に叶う解決ができたかもしれませんが、相続手続が終わってしまったら後の祭りです。

相続で揉めた場合は、まず弁護士に相談し、紛争が終わった後の登記や税務の手続については司法書士や税理士に相談する、というのがベストです。


この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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