成年後見が必要になる場合のポイント

高齢化社会に伴い、認知症となった人の財産問題がピックアップされるようになりました。
認知症で判断能力がないとされる場合、契約などといった法律行為は有効には行えなくなります。
そうなると、介護施設等に入所する際の契約も自分ではできず、また、自分で判断できないまま財産が費消されてしまう恐れもあります。
ここでは、認知症になった方が有効に法律行為をするために必要な成年後見についてご説明します。

目次

なぜ成年後見が必要か

実務上、成年後見が必要となるのは大きく2つのパターンがあります。

ひとつは、認知症となった家族の財産管理をきちんとしたいというケース。

もうひとつは、相続人の中に認知症となった人がいるため遺産分割ができないというケースです。

ひとつめについて、ご本人が認知症になってしまった場合、自立した生活が難しくなり、適正な財産の管理ができない恐れがあります。

そのような場合、一般的にはご家族の方がご本人の財産を管理しつつ、日常生活の世話をしたり介護施設等に入所したりすることが多いでしょう。

しかし、例え家族であっても、ご本人の財産を管理するには注意が必要です。

ご本人が亡くなられた後で、他の相続人から生前の財産の管理について疑問視され、ご本人のために支出した費用を自腹で返金しなければならなくなるといったケースもあります(遺産の「使途不明金」の問題)。

そうならないように適切にご本人の財産を管理するために、「成年後見」を利用するのが望ましいです。

ふたつめについて、相続人の中に認知症の人がいる場合、その方は遺産分割の協議をすること自体ができないとされるため、そのままでは相続手続は進められません。

仮に遺産分割協議書に署名捺印しても後から無効とされる可能性があります。また、調停や訴訟であれば、認知症の相続人がいる場合には裁判所での手続がストップします。

そのため、適正に遺産分割の協議をしたり、調停や訴訟の手続を進めるために、認知症の人に成年後見人を選任してもらい、その成年後見人が認知症の人の代理人となって協議や調停等を進める必要があります。

長谷川式簡易知能評価スケールとは

それでは、どの程度の認知症であれば成年後見が必要となるのでしょうか。

認知症の有無や程度を検査する方法として、「長谷川式簡易知能評価スケール」というものがあります。

長谷川式簡易知能評価スケールとは、被験者に9つの質問をして、その回答結果(30点満点中何点か)によって認知症の程度を調べるという、誰でも手軽に実施できるテスト方法です。

ご家族の方がご本人にこのテストを行って、その結果を踏まえて成年後見を利用するのが必要かどうかをある程度判断することができます。

具体的な質問内容や注意事項については、以下のリンク先のシートをご参照ください。

https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/tool/pdf/tool_05.pdf

(リンク先:一般社団法人日本老年医学会)

テストは30点満点で、20点以下は認知症の疑いがあるとされています。

しかし、20点以下の場合でも、さらにその程度によってどの制度を利用できるかが変わります。

概ね10点以下の場合が、認知症の程度が強いとして、成年後見が相当とされる段階です。

11点~20点の場合は、認知症の程度がそこまで強くないとして、成年後見ではなく保佐や補助が相当となります。

ただし、長谷川式簡易知能評価スケールの結果はあくまで評価基準のひとつに過ぎません。

成年後見の申立てに当たっては最終的に専門医の診断が必要となります。11点以上でも成年後見相当とされる場合もあれば、10点以下でも成年後見相当ではないとされる場合もあります。

成年後見人による財産管理

誰が成年後見人に選任されるかについてですが、ご親族の方が裁判所に成年後見申立てをする際に候補者を推薦することができます。候補者は、ご本人の世話を一番よくしている人がなるケースが多いでしょう。

しかしながら、ご本人の財産が一定程度以上ある場合や、既に相続問題で揉めているなど親族間での紛争性の高い場合では、推薦された候補者によらず裁判所が弁護士や司法書士から成年後見人を選任します。これは、ご本人の財産管理を適正に行うようにという理由と、親族間で紛争がある場合に特定の親族から推薦された候補者では中立に見られない恐れがあるためです。

選任された成年後見人は、ご本人の預貯金を成年後見人名義で管理します。

そして、その預貯金からご本人の生活に必要な施設費等を適宜支払います。

成年後見人は、少なくとも年に1回、裁判所に業務状況を報告します。

成年後見人の職務はご本人が死亡するまで続きます。ご本人が死亡すると職務は終了し、残った財産を相続人の方に引き継ぐことになります。

まとめ

相続で成年後見が問題となるのは、被相続人の生前の財産管理が問題となる場合と、相続人の中に認知症になった人がいる場合の、2つのケースがあります。

特に認知症の相続人がいるケースでは、成年後見を利用しないと相続手続が進められないため、可及的速やかに成年後見の申立てをするのが良いでしょう。

また、認知症になった人の財産管理のケースでも、将来的に介護や世話をしている人がいらぬ疑いをもたれないように自衛するという観点から、できる限り成年後見を利用するのが望ましいです。

この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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