遺産の内容が不明な状態から遺留分侵害額請求をして5200万円を獲得したケース
事案の概要
被相続人:父
相続人:祖母(被相続人の母)、子(Aさん)
Aさんの父親が亡くなったとの連絡が、Aさんの祖母からありました。
ところで、父親は10年以上前に母親と離婚しており、Aさんは母親に引き取られて育てられました。しかし、父親とAさんの面会交流は途絶えていたため、父親や祖母とAさんの関係は疎遠となっていました。
法定相続人は子であるAさんだけでしたが、父親は「すべてのプラスの財産は母に相続させる。負債は子に相続させる」という遺言を残していました。
父親は個人事業主だっただめ、資産がある可能性もあれば、多額の事業負債がある可能性もありました。
そのためAさんは、資産の方が多いとして遺留分の請求をした方が良いのか、負債の方が多いとして相続放棄をした方が良いのか、当事務所に相談に来られました。
当事務所の強み
Aさんと祖母の関係は良好ではなかったため、Aさんから祖母に遺産の内容を教えてほしいと言っても回答は得られませんでした。
そのため、まずはどうにかして遺産の内容を確認する必要がありました。
この点、預貯金や不動産であれば弁護士が調査することも可能ですが、それ以外の財産や負債については調査が難しいのが実情です。
したがって、遺産の全容を知るためには祖母の協力が必要不可欠でした。
ところで、父親の遺言では、祖母が遺言執行者に指定されていました。
遺言執行者は、相続人に対して遅滞なく遺産目録を作成しなければならないとされています(民法1011条)。ここでいう相続人は法定相続人のことをいうので、Aさんは遺言執行者である祖母に対して遺産目録の開示を請求できることとなります。
とはいえ、それまでの経過からすると、Aさんから普通に開示を請求しても祖母からはなしのつぶてであることが予想されました。
そのため、これをとっかかりにできないかとリーガルリサーチをした結果、遺言執行者が遺産目録の開示を拒否した場合には損害賠償責任を負うとする裁判例があることが分かりました(東京地裁平成19年12月3日判決)。
そこで、祖母に対して遺産目録の開示を請求し、もし開示されない場合にはその裁判例を根拠にして損害賠償請求訴訟を提起する可能性がある旨を示唆し、開示を促すこととしました。
解決結果
当職から祖母へ、遺言執行者として財産目録の開示をお願いすること、もし開示してもらえない場合には損害賠償請求をする可能性があることなどをお手紙でご連絡しました。
そうしたところ、祖母が依頼した弁護士から開示するとの回答が得られました。祖母の弁護士が協力的だったことから遺産の開示は円滑に進み、プラスの遺産として1億1000万円あることが判明しました。
その段階で当方から遺留分侵害額請求を行い、負債等を清算した上で遺留分として5200万円を支払ってもらうことができました。
他の弁護士との違い
当職は遺言執行者の職務をすることもあり、そのときは相続人に遺産目録を送付しているので、相続人に対して遺産目録を開示することを解決の糸口とすることに気づけました。
遺言執行者の職務経験がない弁護士であれば、任意で開示をお願いするしかないなどと判断したかもしれません。その場合には、結局何もできないうちに遺留分侵害額請求の期限を過ぎてしまい、遺留分を諦める結果になっていた恐れがあります。