遺留分が問題となる場合のポイント

被相続人が遺言を残す場合、基本的には遺族である相続人が揉めないように配慮するためであることが多いですが、時には特定の相続人のみを優遇あるいは排除する内容になっている場合があります。
その場合には、排除された相続人は他の相続人などに対して遺留分侵害額請求を行うことができます。
また、一見、残された遺産を法定相続分通りに分割したように思えても、生前の財産状況を調査すると一部の相続人に多額の特別受益があったことが発覚し、実は遺留分が侵害されていたという場合もあります。
ここでは、遺留分に関する具体的な算定方法などについてご説明します。

目次

具体的な遺留分の算定方法

遺留分は基本的に以下の算定式で算定されます。

遺留分=遺留分を算定するための財産の価額×総体的遺留分の割合×法定相続分の割合

遺留分を算定するための財産の価額は、「相続開始時の遺産の額+第三者に対する生前贈与の額(原則1年以内)+相続人に対する生前贈与の額(原則10年以内)」で算定されます。

相続開始時の遺産の額は、相続開始時点における被相続人の積極財産の額から、被相続人の債務を控除した残額になります。なお、保証債務については、保証債務の履行が現実化するような場合でない限り、原則として控除しません(東京高裁平成8年11月7日判決)。

相続人以外の第三者に対する贈与は、相続開始前の1年間にされた贈与はすべて算定の対象となります。相続開始の1年前よりも過去にされた贈与は、遺留分権利者に損害を加えることを当事者双方が知っていた場合は、算定の対象となります。

相続人に対する贈与は、特別受益に該当する場合で、相続開始前の10年間にされた贈与については算定の対象となります。相続開始の10年前よりも過去にされた贈与は、遺留分権利者に損害を加えることを当事者双方が知っていた場合は、算定の対象となります。

これらの生前贈与の時期は贈与契約をした時期を基準とします。したがって、10年または1年以上前に贈与契約がされ、実際に贈与されたのが10年又は1年以内の場合は、算定に含めません。

総体的遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人の場合は1/3、それ以外の場合(相続人が子だけの場合、子と配偶者の場合、親と配偶者の場合、配偶者だけの場合)は1/2です。

法定相続分は、遺留分の請求をする相続人の法定相続分です。

なお、遺留分があるのは、配偶者、直系卑属(子、孫)、直系尊属(親)が相続人の場合です。

兄弟姉妹が相続人の場合は遺留分はありません。

遺留分侵害額の算定方法

遺留分侵害額は以下の算定式で算定されます。

遺留分侵害額=遺留分の額-遺留分権利者の現実の相続分の額-遺留分権利者の特別受益の額+遺留分権利者が負担する債務の額

遺留分の額は上述したとおりです。

遺留分権利者の現実の相続分の額は、実際に相続で遺留分権利者が取得した相続財産の額です。

遺言で相続から除外されている場合には0円になります。

遺留分権利者の特別受益の額は、遺留分権利者が被相続人から特別受益に該当する贈与がある場合、その金額です。

特別受益に該当する贈与がない場合には0円です。

遺留分権利者が負担する債務の額は、実際に遺留分権利者が承継することになる被相続人の債務の額です。

これは、単純に被相続人の債務のうち遺留分権利者の法定相続分に相当する額ではありません。もし遺言で特定の相続人に積極財産も消極財産も全て「相続させる」となっている場合、遺留分権利者には承継する債務がないため0円になります。

遺留分侵害額の請求の仕方

遺留分侵害額を請求する権利は、相続開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは時効で消滅します。

また、相続開始から10年を経過すれば当然に消滅します。

なお、遺留分侵害額を請求する権利を行使しさえすれば、それにより生じる具体的な金銭的請求の権利はこれらの時効制限にはかかりません。

そのため、基本的には相続開始から1年以内に、とりあえず遺留分侵害額請求を通知し、それから具体的な遺留分侵害額を算定することも多いです。

また、期間制限の要件をクリアしたことを明確にするため、遺留分侵害額請求の通知は内容証明郵便で行うのが一般的です。

遺留分侵害額請求の相手方は、遺留分を侵害する受遺者、受贈者及びその包括承継人とされています。

例えば、遺言で特定の相続人に全財産を相続させるとなっていた場合、請求の相手方はその相続人になります。

また、遺贈や贈与が複数ある場合には、法律の規定に従って請求する相手方が決まります。基本的には、まず遺贈から先に相手方となり、遺贈だけで遺留分侵害額が充当されない場合には贈与も対象となります。

遺留分侵害額請求の通知をして協議で解決できれば良いですが、協議で解決できない場合には裁判所の手続を利用することになります。

裁判所の手続では、まず家庭裁判所の調停をする必要があります。裁判所は、遺留分侵害額請求の相手方の住所地の管轄裁判所になります。

家庭裁判所での調停が不成立となった場合は、地方裁判所で訴訟を提起することになります。裁判所は、被相続人の死亡時の住所地の管轄裁判所になります。

まとめ

遺留分侵害額を請求するには遺留分侵害額を算定することが必要ですが、その算定をするには専門的な知識が必要となる場合があります。

また、実際に遺留分侵害額の請求をするにも、内容証明郵便から始まり、調停や訴訟といった裁判所での手続に発展する可能性があります。

さらに遺留分侵害額の請求は期間制限もありますので、遺言などで自分の遺留分が侵害されているのではないかと思った時にはすぐに専門家に相談するのがお勧めです。

この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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