遺言を残したい場合のポイント

昨今、書店では遺言作成キットなどが販売されるようになりました。
また、最近ではアプリで遺言を作るようなものまで登場しているようです。
しかし、遺言は法律に定められた方式に則って作成しないと、有効な遺言にはなりません。有効な遺言ではない場合、それはただの手紙や書き置きと変わりません。
ここでは、法的に有効な遺言のやり方についてご説明します。

目次

遺言書を作る目的

単純に遺族の方々に対して感謝の気持ちを伝えたいといった場合には、お手紙を残しておくのでも十分なので、法的な遺言書は必要ありません。

しかしながら、自分の遺産の相続問題で遺族に揉めてほしくないとか、特定の遺産についてはこの人にきちんと相続してほしいといった希望がある場合には、法的な遺言をすることで解決できる場合があります。

逆にいえば、きちんとした遺言書を作っておくことで、自分の死後に遺族が相続で争いとなることを回避することができます。

遺言の方法としては、公正証書遺言と自筆証書遺言の2つになります。

他にも法律で定められている遺言の方式として、秘密証書遺言、死亡急患者の遺言、伝染病隔離者の遺言、剤洗車の遺言、船舶遭難者の遺言がありますが、これらは実務上行われることがほとんどないので、ここでは割愛します。

公正証書遺言とは

遺言者が遺言の内容を公証人に伝えて、公証人がそれを公正証書にして作成する方法です。

証人となる者を2名以上立ち会わせて作成する必要があります。証人は成人であれば基本的に誰でもなれますが、将来の相続人となる者や遺言によって利益を得る者、及びその者の家族などは証人になれません。

公正証書遺言のメリットとして、公証人のチェックが入るので無効とされるリスクが低いこと、公証役場に遺言書の原本が保管されるので紛失・隠匿される恐れがないことが挙げられます。

他方、デメリットとしては、公証人や証人など第三者の関与が必要となること、公証人に作成手数料を納付する必要があることが挙げられます。

実際の作成手順は、遺言者から遺言の内容を公証人に説明し、それに基づいて公証人が遺言書を作成し、証人の立ち会いの下で公証人が遺言者に遺言書の内容を読み聞かせ、遺言者と証人が署名捺印して完成します。

ただし、公証人はあくまで遺言者の遺言を公正証書にするだけですので、遺言の内容についてアドバイス等をすることはありません。

自筆証書遺言とは

遺言者が、遺言書の全文、日付、氏名を自分で書き、押印して作成する方法です。

パソコン等で作成印刷したものは自書には当たらないため無効となります。

例外として財産目録はパソコン等で作成印刷したものでも認められますが、財産目録の全ページに遺言者の署名捺印をすることが必要になります。

日付は年月日が特定できるように記入する必要があります(「吉日」等は不可)

押印は実印でなくても構いません(認印でも可)。

自筆証書遺言のメリットとして、誰にも知られずに自分だけで作成でき、費用も特に掛からないことが挙げられます。

他方、デメリットとしては、法律上の要件を充たさない等で無効とされる危険性が高く、紛失・偽造・隠匿されるリスクも大きいことが挙げられます。

自筆証書遺言は、相続開始後(つまりは遺言者の死亡した後)に、家庭裁判所で検認の手続をしなければならないとされています。

これは、遺言書の状態を保全して偽造や改竄を防ぐためのものです。遺言書の法的有効性等については検認の手続では確定しません。

実際の作成手順としては、遺言者が自筆で作成した遺言書を封筒に入れて封をし、封筒の表に「遺言書在中 家庭裁判所に検認を申請すること」等の注記をして保管しておくことが多いです。

自筆証書遺言保管制度とは

平成30年の相続法改正で、自筆証書遺言を保管する制度ができました。

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html

(リンク先:法務省の「自筆証書遺言保管制度」のサイト)

自筆証書遺言保管制度とは、一定の様式に則って作成された自筆証書遺言を法務局で預かる制度です。

保管される場所は法務局になります。

自筆証書遺言保管制度を利用するためには、自筆証書遺言を作成する際に、A4サイズの用紙で作成し、上下左右に規定幅の余白を入れなければなりません。自筆遺言証書を作成する場合、1枚の紙に収める等の理由でA3サイズといった大き目の用紙を使うことがありますが、それができなくなります。

また、自筆証書遺言保管制度には注目すべきシステムがあります。

それは、遺言者が死亡した時に、法務局から相続人等へ遺言書を保管していることを通知するとなっていることです。

公正証書遺言では、公証役場から相続人にこのような通知をすることはありません。そのため、公正証書遺言を作ったことを相続人に秘密にしていると、相続人が遺言書の存在を知らずに遺産分割をする可能性がありましたが、その恐れがなくなるわけです。

ただ、自筆証書遺言保管制度は、あくまで作成された自筆証書遺言を保管するだけですので、遺言の内容についてアドバイス等をしてくれることはありません。したがって、遺言者の意図しない内容あるいは法的には無効な自筆証書遺言の保管を申請してしまう恐れがあります。

まとめ

自筆証書遺言は、手軽に作成できますが、必ずしも有効な遺言書とならない恐れや、そもそも遺言書の存在がなかったことにされる恐れがあります。

公正証書遺言は、作成するのに若干の手間や費用がかかりますが、法的に無効となる恐れが極めて低く、自分の遺言を正確に残すのに適しています。

手間や費用も、公証役場に行ったりするだけなのでそれほどかかるわけではなく、デメリットとしては薄いでしょう。

自分の遺志をきちんと伝えるためには公正証書遺言の方がおススメです。

この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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