財産分与のポイント
夫婦が離婚する場合、婚姻中に形成した財産を清算するため、その分与を求めることができるとされており、これを財産分与といいます。
財産分与は離婚から2年以内に請求しなければならないとされていますが、実際には離婚する際に財産分与も決めてしまう(財産分与が決まらなければ離婚もしない)というのがほとんどです。
そして、実務ではほとんどのケースにおいて分与の割合は等分(50:50)として算定するのが原則で、この割合が動くということはほぼありません。
他方で、分与割合以外の算定要素については、算定の仕方によって最終的な分与額が大きく変わる場合もあります。
ここでは、財産分与の算定に関する実務の運用についてご説明します。
財産分与の基準時
実務で財産分与が問題となる場合、最初に基準時をいつにするかを確定する必要があります。
基準時を確定した上で、基準時時点に存在していた財産が財産分与の対象となります。
よって、基準時前に既に処分されている財産や、基準時後に取得した財産は、基本的に財産分与の対象とはなりません。
それでは基準時をいつにするかですが、原則として基準時は別居日とされています。
これは、財産分与は夫婦の共同生活により形成した財産を分配するものであるため、別居した後は基本的に共同生活ではなくなるので財産分与の対象ではなくなるという理由によります。
もし別居していないという場合には、離婚成立時点または夫婦の共同生活がなくなった時点ということになると解されます。
別居日がいつなのかで争いになるというケースもあります。
その場合には、別居した方の住民票の異動日、新しい住所の賃貸借契約の締結日(契約上の入居日)など、客観的に特定できる年月日を基準とすることが多いです。
財産分与の対象となる財産
実務上、財産分与でよく問題となる財産は以下のとおりです。
預貯金
基準時時点の残高が対象となります。
例えば、基準時(別居日)が令和5年1月4日の場合、同日の残高(同日に入出金がある場合は最後の残高)が対象となります。
保険
保険契約に解約返戻金がある場合は、基準時時点で解約した場合の解約返戻金額が対象となります。
解約返戻金額は、保険証券等の記載から確認することが多いです。
また、婚姻前から加入している保険の場合は、解約返戻金額のうち婚姻前の期間に相当する分は対象とはなりません。
掛け捨ての保険は対象とはなりません。したがって、実務で問題となるのは貯蓄型の生命保険である場合がほとんどです。
退職金
原則として基準時時点で自己都合退職した場合の退職金額が対象となります。
退職金額は、勤務先から退職金額証明書を発行してもらったり、勤務先の退職金規程に基づいて計算したりして算出します。
また、婚姻前から勤務している場合は、退職金額のうち婚姻前の期間に相当する分は対象とはなりません
例えば、退職金額が200万円、勤続期間20年、婚姻期間15年の場合、200万円×15年/20年=150万円が財産分与の対象となります。
自動車、不動産
基準時時点で存在していた自動車や不動産が対象となります。
具体的な評価額は査定を取って決めます。査定の金額に幅がある場合にはその中間額等で調整して決めます。
ローンが残っている場合は、基準時時点のローン残高を評価額から控除します。
もし評価額よりも残ローン額の方が多い場合は、評価額を0円とするか、他の財産と通算して算定するかのいずれかとなります。
債務
婚姻生活のために負担した債務がある場合には、財産分与の対象となる財産総額から債務総額を控除した残額に分与割合を乗じて各自の取得額を算出し、それから自己名義の財産額と債務額を控除して財産分与額を算出することが多いです。
特有財産とは
基準時時点で存在している財産であっても、夫婦の共同生活で形成した財産には該当しないものについては、財産分与の対象とはなりません。
そのような財産のことを、特有財産(または固有財産)といいます。
実務で主に問題となる特有財産は以下の2通りです。
婚姻前から保有している財産
婚姻前から保有している財産は、夫婦の共同生活で形成したものではないので、財産分与の対象とはなりません。
実務では婚姻前にあった預貯金が特有財産であると主張されることがあります。特に、基準時時点の残高から、婚姻時の残高を控除した残金だけが財産分与の対象となるなどと主張されることがあります。
しかし、預貯金が特有財産であると認められるためには、定期預金等になっていて婚姻前から額面が変動していない場合や、普通預金であれば休眠口座のように婚姻中に一切預金の変動がない場合です。
普通預金で、預金の入出金があって預金残高が変動しているという場合は、基本的に特有財産であるとは認められません。
相続または贈与で取得した財産
相続または贈与で取得した財産も、夫婦の共同生活で形成したとはいえないため、財産分与の対象とはなりません。
ただ、相続で預貯金が増えた場合でも、相続した時期や金額、その後の預貯金残高の変動によっては、特有財産とは認められない可能性もあります。
例えば、基準時の1年前に相続で預貯金が大幅に増え、相続から基準時までの間に預貯金残高が相続した金額よりも下回ったことがないというのであれば、特有財産として認められやすいでしょう。
他方、基準時の10年前に相続で預貯金が増えたとか、相続から基準時までの預貯金残高が尽きかけたことがあるというような場合には、基準時時点で相続した預貯金が残っているとは言い難く、特有財産として認められにくくなります。
基準時前後に預貯金が引き出されている場合
婚姻生活では、夫婦のどちらかが他方の通帳等を預かって管理しているということもあります。
そのような場合、別居直前または別居直後に、配偶者の通帳等を使って預金を引き出してしまうというケースもあります。
別居前に預金を引き出したという場合、引き出した方の預貯金に入金されていればそれを財産分与の対象としますが、引き出された預金が既に費消されているあるいはどこにあるのか分からないという場合には、引き出した方に現金として残っていると仮定して、引き出した金額を引き出した側の財産として計上することがあります。
別居後に預金を引き出したという場合、引き出された方から引き出した方に財産分与で支払う額が発生するときは、引き出された金額を財産分与の前渡しとして充当することがあります。
また、引き出した方から引き出された方に財産分与で支払う額が発生するときは、財産分与とは別に不当利得返還請求等をして返金を要求することがあります。
まとめ
離婚問題では、早い段階で財産分与の概算を行うことで、その後の進行について戦略的に検討することが可能となります。
財産分与の概算をできる限り正確に行うためには、通帳等の資料を用意するほか、専門的な知見が必要となります。
実際、離婚の調停や訴訟では、裁判所所定の計算表を使用して財産分与額を算定することが多く、離婚案件に習熟した弁護士のサポートがあるのとないのとでは結果に大きな差が生まれる場合もあります。