配偶者の不倫相手が医者や経営者だった場合:違法リスクを回避し、適法に適切な慰謝料を得て関係を断つ示談交渉術

配偶者の不倫相手が医者や会社経営者など、社会的地位が高く高所得な人物だった場合、大きな精神的ショックを受けることでしょう。相手が経済的に豊かであるため、「相場以上の慰謝料を請求できるのではないか」と考えるのは当然のことです。

しかし、相手の社会的地位やスキャンダルを恐れる心理を逆手にとって不当な要求をすることは、かえってご自身を重大な法的な危機に陥れるリスクをはらんでいます。本記事では、違法リスクを確実に回避しながら、適法な範囲内で最大限の慰謝料を獲得し、確実に関係断絶を強いるための正しいアプローチについて解説します。

目次

不倫問題における重要な法律用語の正しい理解

不倫の示談交渉において頻出する用語について、実務上の正確な意味を把握しておくことがご自身の権利を守る第一歩となります。

用語意味
不貞行為肉体関係(性交)のみならず、性交類似行為や、肉体関係がなくとも婚姻生活の平穏を破壊する過度な親密交際も、慰謝料請求の対象となる不法行為を構成し得ます。
慰謝料不貞行為によって被害者が受けた多大な精神的苦痛に対する損害賠償金です。
示談裁判を起こすことなく、当事者間の話し合いと合意によって法的なトラブルを解決することです。
接触禁止条項今後一切の連絡や面会を禁止し、もし違反した場合はペナルティを科すという約束事です。
求償権不倫は共同不法行為であるため、全額を支払った不倫相手が、自己の負担部分を超えて支払った金額について、もう一方の責任者である配偶者に対して請求できる法律上当然の権利です。
違約金約束を破った場合のペナルティ(賠償額の予定)ですが、公序良俗に反する過大な金額は法的に無効となる重大なリスクがあります。

不倫相手が高所得者の場合、慰謝料はどう算定されるのか?

法律上、単に「相手が高収入だから」という理由だけで、直ちに慰謝料が相場を劇的に逸脱して増額されるわけではありません。実際の裁判実務において慰謝料の額を大きく左右する主要な考慮要素は、「不貞前の家族関係(婚姻期間や未成熟子の有無)」と「不貞による被害の程度(離婚や別居に至ったか等の破綻の有無)」です。

相手の社会的地位が高く収入が多いという事実は、制裁機能や再発防止の観点から相対的な負担感を調整する目的で、付随的な増額事由の一つとして考慮されるにとどまります。

相手の社会的地位を利用した交渉の「危険性」(絶対に避けるべきNG行動)

医者や経営者といった相手の弱点を突いて、「要求を飲まないなら不倫の証拠を社内や病院内にばら撒く」「会社に居られなくしてやる」といった発言を行うことは絶対に避けてください。正当な慰謝料請求であっても、このような害悪の告知を行えば、脅迫罪、恐喝罪、強要罪に問われる蓋然性が極めて高くなります。

また、事実であっても周囲に不倫を暴露する行為は名誉毀損罪に該当します。こうした違法行為を行えば、相手から逆に損害賠償を請求され、本来得られるはずの慰謝料が大幅に減額される、あるいはゼロになるという最悪の結末を招きかねません。

なお、私的な不貞行為のみをもって、直ちに医師免許の取消し等の重い行政処分が下されたり、会社法上の損害賠償リスクを負ってまで役員が即座に解任されたりすることは実務上稀です。過度な脅し文句は無意味であり、自らを不利にするだけです。

接触禁止条項や違約金条項を設けることの是非と重大な制約

不倫問題の示談において、配偶者と相手を確実に引き離すためには、接触禁止条項や違約金条項を設けることが一般的に推奨されます。これらを設ける最大のメリット(是)は、相手方に強い心理的抑止力を働かせ、不貞関係の再燃を未然に防ぐことができる点にあります。対面での面会や待ち伏せ行為、電話やSNSを通じた直接の連絡、第三者を介した間接的な連絡などを具体的に禁止することで、関係断絶の実効性を高めることが可能です。

一方で、実務上の重大な制約として、接触禁止条項も違約金条項も、あくまで当事者間の「合意」に基づくものであるため、相手方が応じなければ示談書に設定することができないという点が挙げられます。裁判所の判決のように強制的に命じることができるものではないため、示談交渉において相手方から同意を引き出す必要があります。

さらに、デメリット(非)や問題点として、これらの条項が合意できたとしても必ずしも無制限に法的な効力を持つわけではないという点が挙げられます。特に違約金条項については、相手が高所得だからといって際限なく高額に設定できるわけではなく、無効となるリスクが常に付きまといます。

違約金条項の実務上の運用と問題点

違約金は、民法420条に規定される「賠償額の予定」としての性質を有し、当事者間で自由に定めることができるのが原則です。しかし、その金額があまりにも過大であり、当事者間の公平や社会通念に照らして著しく不相当である場合には、公序良俗(民法90条)に反するものとして、過大な部分(あるいはその全部)が法的に無効となる重大なリスクが存在します。

実際の裁判実務において、違約金の合意が有効か無効かを判断する際には、以下の要素が総合的に考慮されます。

  • 接触禁止条項の目的と重要性(当該接触禁止が婚姻関係の修復・維持にどの程度不可欠であるか)
  • 本件不貞行為自体の慰謝料額との均衡(本来の不法行為による精神的苦痛を慰謝する元本に対して、違反に対するペナルティの額が均衡を保っているか)
  • 当事者の経済状況(相手方の収入等)
  • 違反行為の態様(事務的な1回のメール送信であったか、あるいは再度の継続的な不貞行為であったか等)

過去の裁判例では、本来の慰謝料額が150万円であったのに対し、違約金を1000万円と定めたケースにおいて、金額の均衡を著しく失しているとして、違約金としての適法な上限が大幅に制限された事例もあります。

相手方が弁護士を立てている場合、無条件で過大な違約金条項を受け入れることはまずありません。違約金条項が法的に有効と認められるためには、高額に設定すれば良いというものではなく、本来の慰謝料額との均衡を保ち、合理的な金額(例えば、違反1回につき数十万円、または慰謝料と同額程度を上限とするなど)に留める必要があります。過大な違約金は裁判で無効と判断されるリスクが高いため、実効性を担保しつつ相手方の合意を得るためには、弁護士による精緻な条項設計と交渉が不可欠です。

示談後の再発防止:「求償権の放棄」の現実

示談成立後に相手と配偶者が金銭問題で再び関わるリスクを排除するためには「求償権の放棄」が重要となりますが、これも接触禁止条項と同様に、相手方の明確な合意がなければ絶対に放棄させることはできません。現実の交渉においては、求償権を放棄させる代償として、被害者側が本来相手方が支払うべき慰謝料の総額から一定の減額交渉に応じるなどの柔軟な取引が必要になるのが通例です。

まとめと次のステップ

高所得者との示談交渉は、感情的になりがちな当事者本人が自力で行うと、知らず知らずのうちに名誉毀損や恐喝といった違法行為の罠に陥る危険性が極めて高い分野です。

客観的な証拠をもとに、裁判所の算定基準と相手の社会的・経済的立場を踏まえた冷静なアプローチによって、適法な範囲内で最大限の経済的・精神的解決を図るためには、法律の専門家である弁護士のサポートが不可欠です。

札幌市内の葛葉法律事務所では、あなたのお悩みに寄り添い、最適な解決策をご提案いたします。もし少しでもご不安な点があれば、お一人で悩まずに当事務所までご相談ください。

監修:葛葉法律事務所

この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。弁護士歴約20年。
【メディア掲載歴】
・「法律事務所ガイドブック2013 頼れる身近な弁護士」(游学社)
・「財界さっぽろ」2021年12月号・特集記事【成功する経営者は士業を使う】
・「anan」2038号・特集記事【仕事も私生活も、身近な「困った」に頼れる!法律のエキスパート】

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