裁判報道の見方 ~裁判期日のマナー

裁判を生業にしている者からするとちょっと信じられないくらいびっくりするニュースが飛び込んできました。

https://news.yahoo.co.jp/articles/fccb499b65552a22eaeb3899e524cdb6f476a4eb

裁判手続中に国側の代理人が協議内容を秘密裏に録音していたことが発覚したというものです。

まず、裁判所内は撮影や録音は原則禁止されています。
したがって、無許可で録音した場合は問答無用で追い出されても文句は言えません。
ただ、今回の問題は別の点にあります。
それは、個別の和解協議において裁判官と相手方だけで行った話合いを録音(盗聴)していたというところです。

その前提として、裁判の期日の進め方についてご説明します。
裁判の期日には、誰でも傍聴ができる公開の法廷で行われる「口頭弁論」と、当事者以外は立入禁止の室内で行われる「弁論準備」の2種類があります。
大抵の裁判では、初回は口頭弁論が開かれますが、2回目からは弁論準備にすることが多いです。法廷よりも室内の方が膝を突き合わせて協議ができますし、裁判所も毎回法廷を準備するのは煩雑だからでしょう。

今回の事件が起こったのは弁論準備の方です。
弁論準備では、裁判官と原告だけが協議をしたり(その間被告は退室する)、逆に裁判官と被告だけが協議をする(その間原告は退室する)、ということがままあります。このとき、当事者は相手方にはまだ知られてくないけど裁判官にだけは伝えたい事情などを説明したり、裁判官から判決になった場合の心証などについて一方の当事者に対してのみ説明したりなど、原告・被告がそれぞれ裁判官とだけ情報の共有を図ります。
なぜそんなことをするのかというと、例えば原告は書面でこう主張しているけれども、内心では落しどころとして一定の譲歩を考えており、ただ今の段階では被告にそれを知られるのは避けたい、でも裁判官には知っておいてもらった方が後の和解協議の際に話が進みやすくなる、というような場合があり、そのときは予め原告から裁判官に内心で考えている落しどころを伝える必要があるからです。
当然ながら、そのような理由で個別の協議を行うので、原告と裁判官だけが協議するとき、被告は退室します。逆もまた同様です。協議の内容について、他方当事者には後で裁判官から必要な範囲で説明されることがある程度です。

今回、被告である国の代理人は、原告と裁判官だけが協議をする際、室内に録音機器を忍ばせた荷物を置いて退室し、退室中に原告と裁判官が協議している様子を録音していました。それにより、原告が裁判官だけに伝えておきたいと考えていた事情や、裁判官が原告だけに説明しておきたいと考えていた内容が、被告に筒抜けになっていたわけです。
これは、法曹界では率直に言って「あり得ない」というレベルの大失態です。
国の代理人は訟務検事がするので、法曹資格を有する検事がそんなことをするとは……と思ったのですが、録音していたのは防衛相の職員だそうで、さすがに検事はそんなことはしないかと少し安心しました。
まあ、そもそも個別協議の内容を秘密録音しようという発想が、法曹云々関係なくマナー違反であるとすぐに思い当たりそうなものですが。

この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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