北海道の「負動産」(農地・山林)相続|罰則と3つの手放し方
「親が亡くなり、北海道の田舎にある実家の土地を相続することになった」
「登記簿を見たら、想像を絶する広さの農地や山林が含まれていた」
「農業をするつもりはないし、管理もできない。どうすればいい?」
北海道の相続において、特有かつ深刻な悩みの種となるのが、広大な「農地(田・畑)」と「山林」の扱いです。
都市部の宅地とは異なり、これらの土地には法律による厳しい規制があり、「ただ持っているだけ」でもリスク(管理責任や固定資産税)が生じます。最悪の場合、売ることも貸すこともできず、管理費だけがかさむ「負動産」となってしまう恐れもあります。
この記事では、北海道の広大な農地や山林を相続する際に、必ず知っておくべき法的な規制と手続き、そして手放すための選択肢について、札幌の弁護士が解説します。
1:相続したら「まず」直面する2つの義務(放置で過料)
土地を相続した直後から、法律上の「届出義務」が発生します。これらは相続した事実を役所に報告する手続きであり、放置すると罰則(過料)の対象となります。
1-1. 農地:「農地法第3条の3の届出」
相続によって農地(田、畑、牧場など)を取得した場合、農業委員会への届出が必須です。
| 項目 | 内容 |
| 手続き名 | 農地法第3条の3第1項の届出 |
| 提出先 | 土地がある市町村の 農業委員会 |
| 期限 | 農地を相続したことを知った時点から おおむね10ヶ月以内 |
| 罰則 | 届出をしない、または虚偽の届出をした場合、 10万円以下の過料 |
1-2. 山林:「森林の土地の所有者届出」
地域森林計画の対象となっている山林(北海道の私有林の多くが含まれます)を相続した場合も、届出が必要です。
| 項目 | 内容 |
| 手続き名 | 森林の土地の所有者届出書 |
| 提出先 | 土地がある市町村の 林務担当課 |
| 期限 | 土地の所有者となった日から 90日以内 |
| 罰則 | 届出をしない、または虚偽の届出をした場合、 10万円以下の過料 |
2:【要注意】山林相続の「隠れた」重大リスク
第1章の届出はあくまで事後報告です。山林の相続では、それ以上に重大なリスクや実務的な問題が存在します。
2-1. 相続「後」の伐採に「100万円以下の罰金」
第1章の「所有者届出」(10万円以下の過料)を見て、「山林の罰則はその程度か」と考えるのは早計です。
相続した山林を管理・売却のために「伐採」する場合、森林法は、これとは別に『伐採及び伐採後の造林の届出書』の提出を義務付けています。これは伐採を「する前」(自治体によっては1ヶ月前など)に提出が必要です。
もし、この届出を怠って(無届けで)伐採した場合の罰則は、「100万円以下の罰金」です。
これは1の「過料」(行政罰)とは全く次元の異なる「罰金」(刑事罰)であり、前科が付く可能性のある重大な法律違反です。相続した山林の扱いで最も注意すべき点の一つです。
2-2. 北海道の山林特有の「境界不明」問題
北海道の山林で最も多いトラブルが、「自分の土地がどこからどこまでか分からない」という問題です。
- 登記簿上の面積(公簿面積)と、実際の面積(実測面積)が大きく食い違っていることが多い。
- 現地に杭や境界標がなく、隣地所有者との境界が不明確。
境界が不明確なままでは、売却することも、木を伐採して売ることもできません。正確な境界を確定させるには「境界確定測量」が必要ですが、これには数百万円単位の費用がかかることもあり、土地の価値以上の出費になるリスクがあります。
2-3. 維持管理と所有者責任のリスク
土地を相続するということは、その土地の「管理責任」を負うということです。放置すると雑草や害虫が発生し、近隣農家からクレームが来る可能性があります。
法的に問題となるのは、民法第717条の「土地の工作物等の所有者責任」です。例えば、管理不全の立木が朽ちて隣地に倒れ損害を与えた場合や、不法投棄を放置した結果、土壌汚染や悪臭で近隣に被害が及んだ場合、所有者として損害賠償責任を問われる可能性があります。
3: 【2024年義務化】相続登記と「揉めた」場合の対処法
3-1. 3年以内の登記義務と過料
これまでは相続登記(名義変更)をせずに放置しても罰則はありませんでしたが、法律改正により状況が一変しました。
- 2024年4月1日から、不動産(土地・建物)を取得したことを知った日から 3年以内 に相続登記をすることが義務付けられました。
- 過去の相続も対象 : 2024年4月1日より前に相続した土地も、 2027年3月31日まで に登記する必要があります。
- 罰則 : 正当な理由なく義務に違反した場合、 10万円以下の過料 が科される可能性があります。
「価値がない土地だから登記しなくてもいいや」という放置は、今後は通用しません。
3-2. 義務を簡易に果たせる『相続人申告登記』
相続登記義務化の最大の壁は、「遺産分割協議がまとまらない」ことです。
しかし、「揉めているせいで3年が過ぎて過料を科される」という事態を避けるため、簡易な救済策が用意されました。それが『相続人申告登記』制度です。
これは、「私が相続人の一人です」と法務局に申告するだけの手続きです。
- 相続人の一人が単独で申請可能
- 登記申請に係る登録免許税は不要
これを申請すれば、その個人の登記申請義務は果たしたものとみなされます。遺産分割で揉めている場合の、最も現実的かつ安価な一次対応策です。
(※ただし、これは暫定的な措置であり、遺産分割が確定したら、その日から3年以内に別途、正式な登記が必要です)
4:「いらない土地」を手放すための3つの選択肢
管理も売却もできない「負動産」を手放すには、法的に3つの選択肢が考えられます。
4-1. 選択肢①:『相続放棄』
相続放棄は、相続開始を知った時から「3ヶ月以内」に家庭裁判所に申述することで、土地を含む一切の財産(プラスの財産もマイナスの財産も)を相続しなかったことにする手続きです。預貯金や実家など、プラスの財産も一切相続できなくなる点が最大のデメリットです。
【★2023年民法改正の罠】相続放棄しても「管理責任」が残るケース
「相続放棄さえすれば、すべての責任から逃れられる」と考えるのは危険です。
2023年4月の民法改正により、「その放棄の時に相続財産を現に占有している」相続放棄者は、管理責任(保存義務)を負い続けると明記されました。
例えば、相続した実家の鍵を持っている、時折様子を見に行っていた、などの事実が「占有」とみなされる可能性があります。
この残存した管理責任から法的に免れるには、家庭裁判所に「相続財産清算人」を選任してもらう必要があります。
しかし、この清算人選任には、管理費用や報酬として「予納金」の納付を求められます。この予納金が「30万~100万円程度」かかることもあります。
「いらない土地」の管理責任から逃れるために、高額な予納金が必要になる可能性があるのです。
4-2. 選択肢②:『相続土地国庫帰属制度』
相続放棄の期限(3ヶ月)を過ぎてしまった場合や、他の財産は相続したい場合に検討するのが、2023年4月からスタートした「相続土地国庫帰属制度」です。これは、一定の条件を満たした土地を、国が引き取ってくれる制度です。
しかし、どんな土地でも引き取ってもらえるわけではありません。
| 審査のポイント(不承認要件) | 具体例 |
| 建物がある土地 | 廃屋や納屋が残っているとNG。解体して更地にする必要があります。 |
| 境界が明らかでない土地 | 隣地との境界が確定していない山林などはNG。 |
| 管理困難な土地 | 崖地、土壌汚染がある土地、放置された廃棄物がある土地などはNG。 |
費用負担
- 審査手数料 : 土地1筆あたり14,000円
- 負担金 : 審査に合格した場合、10年分の土地管理費相当額(山林や農地の場合、数十万円以上になることも)を納める必要があります。
この制度のハードルは非常に高いのが実情です。法務省の統計(令和7年9月30日現在)では、申請4,374件に対し、帰属(承認)は2,039件です。注目すべきは「取下げ」(774件)が「却下・不承認」(71件)を大きく上回っている点です。これは、審査の途中で境界確定測量などの高額な費用が判明し、申請者が負担金の納付に至る前に申請自体を断念しているケースが多いと推察されます。
4-3. 選択肢③:売却・寄付(農地法のハードル)
相続した農地を、農業をしない人が売ったり貸したりするのは非常に困難です。
- 農家のまま売る場合(農地法第3条許可)は、買い手も「農家(または農業参入法人)」でなければならず、農業委員会の許可が必要です。
- 宅地などに変えて売る場合(農地法第5条許可)は、「農地転用許可」が必要ですが、北海道の広大な農地は「農用地区域内農地(青地)」などに指定されていることが多く、原則として転用は許可されません。
- 寄付する場合、地方自治体(市区町村など)に土地を寄付したいと申し入れても、一般的には受け入れられることはないのが実情です。
農地・山林の相続で困ったら弁護士へ
北海道の広大な農地や山林の相続は、都市部の不動産相続とは全く異なる専門知識が必要です。
「農地法」や「森林法」の規制をクリアし、個別の事情に応じて「相続放棄」、「相続土地国庫帰属制度」、あるいは「相続人申告登記」の利用を検討するなど、総合的な法的判断が求められます。
- 遺産分割 : 誰が土地を引き継ぐかで揉めている。
- 調査 : そもそも親がどれくらいの山林を持っていたか分からない。
- 処分 : いらない土地を手放すために、国庫帰属制度の要件を満たすか知りたい。
このようなお悩みをお持ちの方は、自己判断で放置せず、まずは専門家である弁護士にご相談ください。
もし少しでもご不安な点があれば、お一人で悩まずに、法律の専門家である弁護士にご相談ください。
葛葉法律事務所では、初回相談を無料で承っております。
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監修:葛葉法律事務所
