裁判報道の見方 ~岡本夏生氏×ふかわりょう氏の1円裁判

 先日、タレントのふかわりょうさんが岡本夏生さんに対して損害賠償として1円の支払うよう命じる判決があったという報道がありました。

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 判決が報道されたことで初めてそういった裁判があったのを知りましたが、やはりなんといっても「1円」という金額が注目されます。

 なぜ判決で1円しか認められなかったのかというと、これは岡本さんの請求額が1円だったからです。
 なぜ岡本さんが1円しか請求しなかったかというと、別の報道によれば「損害賠償額は1000万円を下らないが、お金が欲しいわけではないので請求額は1円にする」ということだったようです。判決でも、「本来の損害賠償額は80万円だが、請求額が1円なので1円の支払いを命じる」となっています。

 ではなぜ1円でもお金の請求をしなければならなかったかというと、金銭的な請求にしないと民事裁判が提起できないからです。
 どういうことかというと、単に「裁判所に被告が悪いと認めて欲しい」という裁判はできないのです。そのため、「裁判所に被告が悪いので損害賠償としていくら支払うよう命じて欲しい」というように、あくまで金銭的な請求をするという体裁に整える必要があります。
 岡本さんは民事訴訟を提起する前に刑事告訴をしており、そちらは不起訴処分になったそうです。そうすると、岡本さんとしてはせめて民事の方ではふかわさんが悪いということを裁判所に認めてもらいたいというのが主眼だったのでしょう。そのため、請求額は1円で良いとしたものと思われます。

 ちなみに、実際の訴訟経過を全く知らないのであくまで推測ですが、請求額を1円とすることで少しだけ裁判が早く進んだものと思われます。
 というのも、この裁判の場合、①被告が悪いかどうか、②(被告が悪い場合)損害賠償額はいくらが妥当であるか、の2点を審理することとなります。そして、請求額が1円の場合、このうちの②についてはほとんど審理をする必要がなさそうです。というのも、被告が悪いとされた場合、よほどのことがない限り1円程度の損害賠償なら認められると解されるからです。もしこれが100万円の請求の場合、損害賠償額として100万円が妥当かどうか、例えば50万円ではダメなのか、といったことを審理する必要がありますので、その分だけ当事者双方で主張立証を重ねる必要があります。
 とはいえ、②の主張立証に注力するということは普通の裁判でもあまりないので、裁判が早く進んだといっても誤差程度かもしれませんが……。


 この記事でご紹介した「1円裁判」のように、世の中には、必ずしもお金の大小だけでは測れない問題が数多く存在します。

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この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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