遺産分割の放置が招く「数次相続(複雑な相続)」の悪夢。札幌の地主が今すぐ着手すべき資産整理の優先順位

「親が亡くなって数年経つが、実家の名義は父親のままになっている」

「兄弟とは仲が良いから、いつでも遺産分けできると思ってそのままにしている」

札幌市やその近郊に土地や実家をお持ちの方で、このようにお考えの方は危険信号です。

遺産分割協議を先送りにしている間に、次の相続が発生してしまうことを法的には「数次相続(すうじそうぞく)」と呼びます。

この状態に陥ると、当初は簡単だったはずの手続きが複雑化し、解決までに膨大な時間と費用がかかる「悪夢」のような事態を招きかねません。

この記事では、遺産分割の放置が引き起こす法的なリスクと、2024年の登記義務化や空き家法改正を踏まえた、札幌の地主様が今すぐ着手すべき資産整理の優先順位について、法律の専門家が分かりやすく解説します。

目次

遺産分割の放置中に起こる「数次相続」と「二次相続」の違い

多くのメディアやインターネット上で「二次相続」という言葉が使われますが、これは本来、相続税の実務において「一次相続(両親の一方)の次に配偶者が亡くなること」を指す言葉です。

一方、遺産分割協議が終わらないうちに相続人の一人が亡くなり、権利関係が複雑に絡み合ってしまう状態を、法律用語では正確には「数次相続(すうじそうぞく)」と呼びます。

通常の相続と数次相続(放置)の違い

項目通常の相続(放置なし)数次相続(放置あり)
当事者親と子、兄弟姉妹など、関係性が近い甥、姪、義理の家族など、関係性が希薄な人が加わる
人数数名程度ネズミ算式に増え、10人以上になることも
話し合い円滑に進みやすい連絡先を知らない、面識がないため難航する
手続き戸籍収集もシンプル大量の戸籍が必要となり、専門知識がないと困難

このように、時間が経てば経つほど関係者が増え、解決の糸口が見えなくなってしまいます。

なぜ「悪夢」なのか?放置が招く4つのリスク

札幌で不動産を所有している場合、遺産分割の放置は以下のような具体的なリスクに直結します。

1. 相続人の増加による協議の泥沼化

遺産分割協議を成立させるには、相続人全員の合意と実印(印鑑証明書)が必要です。

放置している間に相続人の一人が亡くなると、その配偶者や子供が新たな相続権を持ちます。

リスクの具体例:

  • 疎遠だった親戚が権利を主張し始める。
  • 認知症の高齢者が相続人に含まれ、成年後見人の選任が必要になる。
  • 行方不明の相続人が現れ、手続きがストップする。

2. 不動産の「塩漬け」と資産価値の低下

全員のハンコが揃わなければ、不動産の売却も、建物の解体も、賃貸に出すこともできません。

結果として、誰も住まない実家が「塩漬け」状態になります。

  • 売れない: 買主が見つかっても、売買契約を結べない。
  • 貸せない: リフォームや契約行為ができない。
  • 担保にできない: 融資の担保として活用できない。

3. 【札幌特有】改正空家法と民法上の「無過失責任」

札幌や北海道特有の問題として、冬場の管理負担があります。ここでは最新の法改正と厳しい責任論について解説します。

改正空家法による「管理不全空家」指定と増税リスク

従来は、倒壊の危険がある「特定空家」に指定されなければ固定資産税の優遇(住宅用地特例)は継続しました。しかし、2023年の法改正により、その前段階である「管理不全空家(窓ガラスの破損や雑草の繁茂など)」に指定され、自治体からの勧告を受けた時点で、特例が解除されることになりました。

これにより、従来よりも早い段階で固定資産税の軽減措置がなくなり、税額が最大6倍(※土地の評価額や負担調整措置により実際の倍率は変動します)に跳ね上がるリスクが生じています。

民法717条(土地工作物責任)による無過失責任

屋根からの落雪で隣家を破損させたり、歩行者に怪我をさせたりした場合、所有者は民法上の工作物責任を負います。

この責任の恐ろしい点は、所有者に過失がなくても責任を負わなければならない「無過失責任」であることです。「遠方に住んでいて雪の状況を知らなかった」「急なドカ雪で対応できなかった」という言い訳は法的には通用せず、多額の賠償責任を負うことになります。

4. 2024年からの「相続登記の義務化」と経過措置

法律の改正により、現在は相続登記(不動産の名義変更)が義務化されています。

  • 義務の内容: 不動産を取得したことを知ってから3年以内に登記申請が必要。
  • ペナルティ: 正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料が科される可能性があります。

【重要】過去の相続にも遡及適用されます

2024年4月1日の施行日より前に発生した相続についても義務化の対象です。ただし、経過措置として2027年(令和9年)3月31日までの猶予期間が設けられています。

「昔のことだから関係ない」では済まされませんので、猶予期間内に手続きを終える必要があります。

札幌の地主様へ:資産整理の優先順位チェックリスト

「何から手をつければいいか分からない」という方のために、優先順位を整理しました 。 ご自身の状況と照らし合わせてみてください 。

優先度:高(今すぐ着手すべき項目)

以下の項目に当てはまる場合は、一刻も早い対応が必要です

項目理由
相続人の中に70代以上の方がいる次の相続(数次相続)が発生し、権利関係が複雑化するリスクが高いため 。
相続人の中に認知症の懸念がある方がいる意思能力を失うと、遺産分割協議ができなくなり、成年後見人が必要となるため 。
空き家になっている実家がある「管理不全空家」への指定リスクや、落雪事故による無過失責任を回避するため 。
相続発生から3年以上経過している改正不動産登記法違反に問われる可能性があるため。(※2024年4月以前の相続は2027年3月末まで猶予あり)

優先度:中(半年以内に解決すべき項目)

項目理由
相続財産に預貯金が含まれている口座凍結が続くと、葬儀費用や生活費の工面に困る場合があるため
将来的に売却を考えている不動産があるいざ売却しようとした時に、名義変更の手続きで数ヶ月待たされるのを防ぐため

優先度:低(並行して進める項目)

  • 遺品整理:重要な書類(権利証、通帳、保険証券など)の捜索を優先し、不用品の処分は後でも構いません 。
  • 法要の準備:親族が集まる法要は、遺産分割の話を切り出す良いタイミングでもあります 。

ご自身の状況で「優先度:高」に該当する項目があった方は、すぐに専門家へ相談することをお勧めします

複雑化した相続を解決するために弁護士ができること

すでに数次相続が発生してしまっている場合や、相続人が多くて話がまとまらない場合でも、弁護士が介入することで解決への道筋をつけることができます。

1. 相続人調査と関係図の作成

戸籍謄本を職権で収集し、複雑になった相続関係を紐解いて「誰に権利があるのか」を確定させます。

数次相続が発生している場合、数十通以上の戸籍収集が必要になることもありますが、弁護士が全て代行します。

2. 相続財産の調査(不動産・預貯金)

「親がどこの銀行に口座を持っていたか分からない」「他に土地があるかもしれない」という場合でも、弁護士会照会(23条照会)などの制度を使って調査が可能です。

主要な金融機関であれば、支店が不明であっても全店照会(一括照会)によって口座の有無を調査できる場合があります。また、札幌市内の不動産名寄せ帳の取得などもサポートします。

3. 他の相続人との交渉・法的手続きの代理

これが最も大きなメリットです。

弁護士があなたの代理人となり、疎遠な親戚や話し合いが難しい相手と交渉を行います。

  • 感情的な対立を防ぐ: 第三者が入ることで冷静な話し合いが可能になります。
  • 法的な正当性を主張: 無理な要求に対して、法律に基づいた反論ができます。
  • 過料回避のための手続き: 遺産分割がまとまらない場合でも、とりあえず「相続人申告登記」を行うことで、登記義務違反による過料を回避するサポートが可能です。
  • 行方不明者の対応: 相続人に行方不明者がいる場合は、不在者財産管理人の選任申立てなど、裁判所を通じた手続きも一貫して行います。

弁護士に依頼するメリットまとめ

悩み弁護士の解決策
相続人が誰か分からない戸籍を全て調査し、相続人確定図を作成します。
遺産の全貌が不明金融機関や役所への照会を行い、財産目録を作成します。
親戚と揉めたくない代理人として窓口になり、円満な解決を目指します。
遺産分割がまとまらない「相続人申告登記」を活用し、まずは過料リスクを回避します。

まとめと次のステップ

遺産分割の放置は、百害あって一利なしです。

特に「数次相続」が発生してしまうと、本来なら受け取れたはずの資産が目減りしたり、解決までに数年の時間を要したりすることもあります。

大切なご実家や資産を、次の世代へきれいな形で引き継ぐために、今の段階で一度整理をしておくことが重要です。

この記事で解説した内容は、あくまで一般的なケースです。

個別の状況によっては、より複雑な手続きや判断が必要になることも少なくありません。

もし少しでもご不安な点があれば、お一人で悩まずに、法律の専門家である弁護士にご相談ください。

葛葉法律事務所では、初回相談を無料で承っております。

あなたのお悩みに寄り添い、最適な解決策をご提案いたします。

まずはお気軽にお問い合わせください。

この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。弁護士歴約20年。
【メディア掲載歴】
・「法律事務所ガイドブック2013 頼れる身近な弁護士」(游学社)
・「財界さっぽろ」2021年12月号・特集記事【成功する経営者は士業を使う】
・「anan」2038号・特集記事【仕事も私生活も、身近な「困った」に頼れる!法律のエキスパート】

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