弁護士会照会で相続手続きを円滑に進める完全ガイド

相続手続きでは、被相続人の財産を正確に把握することが重要です。 しかし、故人の預金口座や不動産などの情報を相続人が把握していないケースも少なくありません。 そのような場合に有効な手段が「弁護士会照会《べんごしかいしょうかい》」です。

本記事では、弁護士会照会を利用した相続手続きについて、専門外の方にも分かりやすく解説します。

目次

この記事で解説する内容

  • 弁護士会照会とは何か
  • 相続における弁護士会照会の活用方法
  • 手続きの流れと必要な条件
  • 費用の目安と注意点
  • 弁護士への依頼方法

弁護士会照会とは

制度の概要

弁護士会照会は、弁護士法第23条の2に基づく法的制度です。
弁護士が受任事件の解決のために必要な事実を調査する場合、所属する弁護士会を通じて公的機関や民間企業に対して情報開示を求めることができます。 この制度により、通常は第三者が取得できない個人情報や取引記録などを合法的に入手することが可能です。

項目内容
法的根拠弁護士法第23条の2
別名23条照会、弁護士会照会
実施主体各弁護士会
対象機関公的機関、金融機関、企業等

弁護士会照会の特徴

弁護士会照会には以下の特徴があります。

  • 法的強制力:照会を受けた機関は原則として回答義務があります
  • プライバシー保護:弁護士の守秘義務により情報が適切に管理されます
  • 弁護士限定:弁護士以外は利用できない制度です
  • 事件受任が前提:単なる調査目的では利用できません

相続における弁護士会照会の活用場面

主な活用ケース

相続手続きにおいて弁護士会照会が特に有効な場面をご紹介します。

預貯金の調査

被相続人の預金口座が不明な場合や、特定の相続人が故人の預金通帳を隠している場合に、金融機関に対して取引履歴の開示を求めることができます。

  • 調査可能な情報
    • 口座の存在の有無
    • 残高情報
    • 過去の取引履歴
    • 定期預金の有無など

被相続人の生活状況の調査

被相続人が介護認定を受けていた場合、居住地の役所の介護課に照会をすることができます。

  • 介護認定調査票の取得

その他の財産調査

  • 生命保険契約の有無
  • 有価証券の保有状況
  • 借入金の存在確認

調査対象となる機関

機関の種類調査可能な内容
金融機関預金残高、取引履歴、貸金庫の利用状況
市区町村介護認定調査の状況
保険会社生命保険契約の有無、受取人情報
証券会社株式・債券の保有状況

弁護士会照会の手続きの流れ

1. 弁護士への相談・依頼

まず、相続問題を取り扱う弁護士に相談し、正式に事件として受任してもらう必要があります。
弁護士が単に調査だけの目的で弁護士会照会を行うことは認められていないため、依頼者から事件として受任している必要があります。

2. 弁護士会への申請

弁護士が所属する弁護士会に対して照会申請を行います。
照会を行う必要性や相当性も要件とされており、その有無を弁護士会が審査し、この審査が通って初めて照会を行うことが可能になります。

3. 弁護士会による審査

弁護士会では以下の点を審査します。

  • 必要性:照会が事件解決に必要かどうか
  • 相当性:照会内容が妥当かどうか
  • プライバシー配慮:個人情報保護の観点から適切かどうか

4. 照会の実施

審査を通過した場合、弁護士会から対象機関に対して正式な照会が行われます。

5. 回答の取得

照会を受けた機関から弁護士会へ回答が得られ次第、弁護士会から弁護士を通じて依頼者に情報が提供されます。
照会を受けた機関からの回答がなされない場合には、弁護士会から機関へ回答を督促する場合もあります。

弁護士会照会の費用

費用の構成

弁護士会照会にかかる費用は以下のように構成されます。

費用項目概算金額備考
弁護士への相談料5,000円〜10,000円/時間初回無料の事務所も多い
着手金10万円〜30万円事件の複雑さにより変動
弁護士会照会手数料数千円〜1万円/件弁護士会により異なる
実費実費相当額郵送費、謄写費等

各種証明書発行手数料、弁護士会照会費用、謄写費用、裁判実費等の実費につきましては、都度ないし後日精算となることがあります。
ちなみに、札幌弁護士会における照会手数料は、1件につき4,000円です。

費用を抑えるポイント

効率的に弁護士会照会を進めるために、以下の点に注意しましょう。

  • 事前の情報整理:可能な限り被相続人の情報を整理しておく
  • 複数照会の同時実施:関連する照会を同時に行う(照会手数料の節約になる)
  • 明確な目的設定:何を調査したいかを明確にする(何度も照会する手間を省く)

弁護士会照会を利用する際の注意点

利用の制限

弁護士会照会には以下の制限があります。

  • 弁護士のみ利用可能:一般の方は直接利用できません
  • 事件受任が前提:相談だけでは利用できません
  • 審査が必要:必要性・相当性の審査を通過する必要があります

所要時間の目安

  • 審査期間:申請から照会実施まで1〜2週間程度
  • 回答期間:照会先の対応により数日〜数週間
  • 全体期間:1ヶ月程度を見込んでおく

プライバシー等への配慮

弁護士会照会で得られた情報は、弁護士の守秘義務により厳格に管理されます。場合によっては依頼者へ直接開示されることが適当でないケースもあります。

弁護士選びのポイント

相続専門性の確認

弁護士会照会を効果的に活用するためには、相続分野に精通した弁護士を選ぶことが重要です。

  • 相続事件の取扱い実績
  • 弁護士会照会の経験
  • 金融機関との交渉経験

費用体系の明確さ

事前に費用体系を明確に説明してくれる弁護士を選びましょう。

確認項目チェックポイント
相談料初回無料かどうか
着手金金額と支払い時期
報酬金成功報酬の割合
実費弁護士会照会費用の取扱い

コミュニケーション

相続手続きは長期間にわたることが多いため、弁護士との円滑なコミュニケーションが重要です。

  • 説明の分かりやすさ
  • レスポンスの早さ
  • 親身な対応

まとめ

弁護士会照会は、相続手続きにおいて被相続人の財産を正確に把握するための有効な手段です。 ただし、弁護士への依頼が前提となるため、信頼できる相続専門の弁護士を選ぶことが重要です。

相続手続きでお悩みの方は、まず弁護士に相談し、弁護士会照会の活用も含めた総合的なアドバイスを受けることをお勧めします。 適切な財産調査により、円滑で公正な相続手続きを進めることができるでしょう。


葛葉法律事務所では、相続に関するご相談を承っております。弁護士会照会を活用した財産調査についても豊富な経験がございますので、お気軽にご相談ください。

この記事の執筆者

葛葉法律事務所の監修記事です。
掲載されている記事は主として一般的な解説をするものであり、特定の事件に関する葛葉法律事務所の見解を示すものではありません。

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