【札幌版・2025年最新】相続放棄の手続きと3ヶ月の期限を過ぎた場合の対処法
亡くなったご家族に、プラスの財産よりも多くの借金があることが判明した場合、相続人には「相続放棄」という選択肢があります。これは、故人の権利や義務を一切引き継がないと家庭裁判所に申し出る手続きです。
しかし、この相続放棄には「相続の開始を知った時から3ヶ月以内」という厳格な期限が定められています。「手続きがよく分からない」「最近になって督促状が届き、初めて借金の存在を知った」と悩んでいるうちに、この期限を過ぎてしまうケースも少なくありません。
この記事では、札幌市にお住まいの方向けに、札幌家庭裁判所で行う相続放棄の具体的な手続き、万が一3ヶ月の期限を過ぎてしまった場合の対処法、そして2023年の法改正による重要な変更点まで、弁護士が詳しく解説します。
相続放棄とは?借金も財産もすべて引き継がないための手続き
相続というと、不動産や預貯金といったプラスの財産を受け継ぐイメージが強いですが、借金やローン、損害賠償義務といったマイナスの財産もすべて引き継ぐのが原則です。そこで、相続人が自分の状況に応じて選択できるよう、法律は3つの相続方法を定めています。
| 相続の方法 | 読み方 | 内容 |
| 単純承認 | たんじゅんしょうにん | プラスの財産もマイナスの財産もすべて無条件に引き継ぐ方法。 |
| 限定承認 | げんていしょうにん | プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぎ、もし財産が残ればそれも相続する方法。 |
| 相続放棄 | そうぞくほうき | プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がない方法。初めから相続人ではなかったことになります。 |
借金の額が明らかにプラスの財産を上回る場合は、相続放棄を選択するのが一般的です。相続放棄をすれば、故人の借金の返済義務を負うことは一切なくなります。
絶対に知っておくべき「3ヶ月」の期限(熟慮期間)
相続放棄を検討する上で、最も重要なのが熟慮期間と呼ばれる期限です。
原則:自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内
「知った時」とは、一般的に、①被相続人が亡くなったこと、②それによって自分が相続人になったこと、の両方を知った時を指します。
この3ヶ月という期間は、相続人が財産状況を調査し、3つの相続方法のいずれを選択するかを判断するために設けられています。この期間を1日でも過ぎてしまうと、原則として単純承認したものとみなされ、故人の借金をすべて背負うことになってしまいます。
【札幌家庭裁判所】相続放棄の申述手続き 4つのステップ
相続放棄は、亡くなった方(被相続人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し出る必要があります 。被相続人の最後の住所が札幌市やその近郊(江別市、千歳市、恵庭市、北広島市、石狩市、当別町、新篠津村)であれば、
札幌家庭裁判所 本庁(札幌市中央区大通西12丁目)が管轄となります。
手続きは以下の4ステップで進みます。
ステップ1:必要書類の収集
まず、申立てに必要な書類を集めます。
| 書類の種類 | 取得場所・備考 |
| 相続放棄の申述書 | 裁判所のウェブサイトからダウンロードできます。 |
| 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票 | 被相続人の最後の住所地の市区町村役場。 |
| 申述人(放棄する人)の戸籍謄本 | 申述人の本籍地の市区町村役場。 |
| 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍)謄本 | 被相続人の本籍地の市区町村役場。 |
※ 被相続人からみて申述人が誰か(子、配偶者、親、兄弟姉妹など)によって、追加で他の親族の戸籍謄本が必要になる場合があります。
ステップ2:申述書の作成と提出
収集した書類をもとに申述書を作成し、手数料として収入印紙(申述人1人につき800円分)と、裁判所からの連絡に用いる郵便切手(札幌家庭裁判所本庁では合計で数百円程度。申立て前に裁判所のウェブサイト等で最新の情報を確認してください)を添えて、札幌家庭裁判所に提出(持参または郵送)します。
ステップ3:裁判所からの照会書に回答
申立てから1〜2週間ほどで、裁判所から申述人の住所宛に「照会書(回答書)」という書類が送られてきます。これは、「本当にご自身の意思で相続放棄をしますか?」といった意思確認のための質問状です。内容をよく読み、署名・押印して裁判所に返送します。
照会書は送られてこない場合もあります。そのときは、質問手続きはなされないまま、次のステップ4に進みます。
ステップ4:「相続放棄申述受理通知書」の受け取りと「受理証明書」の取得
回答書を返送し、特に問題がなければ、裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が送られてきます。この通知書を受け取った時点で、相続放棄の手続きは正式に完了です。
この通知書は、債権者に借金の返済を求められた際に、相続放棄したことを証明する重要な書類となりますので、大切に保管してください。なお、金融機関や不動産登記など、対外的な手続きで正式な証明書の提出を求められた場合は、この通知書とは別に、家庭裁判所に「相続放棄申述受理証明書」の交付を申請する必要があります。これは1通150円の手数料で取得でき、債権者への提出用に複数枚取得しておくことをお勧めします。
3ヶ月の期限を過ぎてしまった…もう手遅れ?
「借金の存在を最近知った」「他の相続人とのやり取りに時間がかかり、気づいたら3ヶ月過ぎていた」という場合でも、諦めるのはまだ早いです。
原則として、民法で定められた3ヶ月の熟慮期間を過ぎると相続放棄は認められません。しかし、最高裁判所の判例(最判昭和59年4月27日)は、例外的に相続放棄が認められる道筋を示しています。
この判例によれば、①被相続人にプラスもマイナスも相続財産が全くないと信じ、②そのように信じたことに相当な理由があり、③財産の調査を期待することが著しく困難な事情があった場合には、熟慮期間の計算を始める時点(起算点)を、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から「借金など相続財産の存在を初めて知った時」に繰り下げることが認められます。
したがって、債権者からの督促状が届いて初めて借金の存在を知ったようなケースでは、その時点から3ヶ月以内であれば、相続放棄の申立てが受理される可能性があるのです。ただし、これらの事情を裁判所に認めてもらうためには、事情説明書(上申書)を作成し、督促状などの証拠を添えるなどして、説得力のある主張を行う必要があります。これは法律の専門知識が不可欠な領域ですので、期限を過ぎてしまった場合は、すぐに弁護士に相談してください。
要注意!相続放棄ができなくなる「法定単純承認」とは
相続放棄を検討している期間中に、特定の行為をしてしまうと、単純承認した(=すべての財産と借金を相続する)とみなされ、相続放棄ができなくなってしまうことがあります。これを「法定単純承認」といいます。
具体的に注意すべき行為の例
- 故人の預金を解約して使う
- 故人名義の不動産を売却する、取り壊す
- 故人の車を売却する
- 価値のある遺産を隠す
ただし、故人の医療費を未払いの入院費に充てる行為や、葬儀費用を支払う行為については、単純承認に当たらないとされるのが一般的です。特に葬儀費用については、判例(例:大阪高決平14.7.3)も、葬儀の社会的必要性の高さから、社会通念上相当な範囲の費用を遺産から支出することは「相続財産の処分」には当たらないと判断しています。
もっとも、これは無制限に認められるわけではありません。例えば、故人に多額の借金があることを知りながら、その返済を度外視して、遺産から社会通念を逸脱するほど豪華な葬儀を行ったり、不相当に高価な墓石を購入したりした場合には、単純承認とみなされるリスクが高まります。支出する費用の相当性や、ご自身の行為が「処分」にあたるかどうかの判断に迷う場合は、行動を起こす前に必ず専門家にご相談ください。
【2023年法改正】相続放棄後の財産管理はどうなる?
相続放棄をすれば、すべての責任から解放されるとお考えかもしれません。しかし、残された財産、特に不動産の管理については注意が必要です。この点に関して、2023年4月1日に施行された民法改正で、相続放棄をした人の責任が大きく見直されました。
【改正前の問題点】
以前の法律では、相続放棄をしても、次に相続人となる人が財産の管理を始めるまで、すべての遺産に対する管理責任が残りました。これにより、例えば、自身は全く関与していなかった遠方の実家(空き家)についても、相続放棄した人が管理を続けなければならないという、非常に重い負担が生じる可能性がありました。
【2023年改正法による解決】
この問題を解決するため、新しい民法第940条ではルールが以下のように変更されました 26。
- 責任を負うのは「現に占有している財産」のみに限定:相続放棄をした人の責任は、「その放棄の時に相続財産を現に占有している」場合に限定されました。つまり、被相続人と同居していた家など、現に手元で占有・管理していた財産については、次の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで適切に保存する義務が残ります。しかし、全く関与していなかった遠隔地の土地や、存在すら知らなかった財産については、原則として責任を負わなくなりました 27。
- 義務の内容が「管理」から「保存」へ軽減:負うべき義務も、より積極的な行為を含む「管理義務」から、財産の価値を維持するための現状維持的な行為を指す「保存義務」へと内容が軽減されました 。
| 比較項目 | 旧民法 第940条 | 新民法 第940条(2023年4月1日施行) |
| 責任の対象 | 相続財産のすべて | 放棄時に「現に占有」している財産のみ |
| 義務の内容 | 広範な「管理」義務 | 限定的な「保存」義務 |
| 義務の終期 | 次の相続人が管理を開始できるまで(曖昧) | 次の相続人または相続財産清算人への引渡しまで(明確化) |
この改正は、特に管理が困難な「空き家問題」などに悩む相続人にとって、非常に重要な意味を持ちます。
【新制度】土地だけ手放したい…相続放棄以外の選択肢「相続土地国庫帰属制度」
「借金はないけれど、利用価値のない田舎の土地や、管理が困難な山林だけを相続してしまい困っている」というご相談も増えています。従来、このような特定の財産だけを手放すことはできず、相続放棄をすると預貯金などの必要な財産もすべて失うことになりました。
この問題を解決するため、2023年4月27日から「相続土地国庫帰属制度」という新しい制度が始まりました。
これは、一定の要件を満たす土地について、審査手数料と国が定める負担金(土地の管理にかかる10年分の費用)を納付することで、その土地の所有権を国に移すことができる制度です。相続放棄とは異なり、
必要な財産は相続しつつ、不要な土地だけを手放すという選択が可能になります 。
| 比較項目 | 相続放棄 | 相続土地国庫帰属制度 |
| 対象財産 | プラス・マイナス問わずすべての財産 | 相続した土地のみ(一定の要件あり) |
| 他の財産の扱い | すべて手放す(取得不可) | 土地以外の財産は相続できる |
| 期限 | 原則、相続を知ってから3ヶ月以内 | 期限なし(相続後いつでも申請可) |
| 費用 | 数千円程度(印紙・切手代) | 高額(審査手数料+数十万円以上の負担金) |
| 主な利用場面 | 借金が資産を上回る場合 | 資産が借金を上回るが、特定の土地だけが不要な場合 |
どちらの制度を選択すべきかは、財産全体の状況によって大きく異なります。専門家による資産状況の正確な分析が、最適な選択をするための鍵となります。
ただ、実際の運用として、どんな土地でも対象となるわけではありません。実際に対象となる土地は制限されることから、必ずしも相続土地国庫貴族制度が利用できるわけではない点に注意が必要です。
相続放棄に関するよくある質問(Q&A)
Q. 相続放棄をすると、子供や孫に借金が引き継がれますか?
A. 相続放棄をすると、その人は初めから相続人ではなかったことになります。そのため、相続権は次の順位の相続人に移ります。例えば、第一順位である子全員が相続放棄をした場合、第二順位である故人の父母(祖父母)が相続人となります。その方々も借金を負いたくなければ、同様に相続放棄の手続きが必要です。
なお、これは被相続人よりも先に子が亡くなっていた場合に、その子(被相続人の孫)が相続権を引き継ぐ「代襲相続」とは異なる制度です。相続放棄による相続権の移転と代襲相続は混同されやすいため、ご注意ください。
Q. 生命保険金を受け取っても相続放棄はできますか?
A. はい、原則として可能です。受取人が指定されている生命保険金は、保険契約に基づき受取人が直接取得する「固有の財産」と解されており、亡くなった方の「相続財産」には含まれないからです 。したがって、ご自身が受取人として指定された生命保険金を受け取る行為は、相続財産の処分には当たらず、その後に相続放棄をすることも問題ありません。
ただし、一点、極めて重要な注意点があります。
受け取った保険金の額が、他の遺産総額と比較して著しく高額であるなど、相続人間の不公平が「到底是認できないほど著しい」と評価されるような特別な事情がある場合、その保険金が遺産分割の際に「特別受益」に準ずるものとして扱われる可能性がある、という最高裁判所の判例(最判平16.10.29)が存在します。これは、相続放棄とは直接関係のない、他の相続人との間での遺産分割における問題ですが、多額の保険金を受け取る際には、将来的な紛争に発展するリスクも念頭に置く必要があります。
Q. 手続きを弁護士に依頼するメリットは何ですか?
A. 弁護士にご依頼いただくことで、以下のようなメリットがあります。
- 煩雑な戸籍謄本等の収集をすべて代行します。
- 裁判所に提出する申述書を正確に作成します。
- 裁判所からの照会書への対応もサポートします。
- 特に、3ヶ月の期限を過ぎてしまったケースでは、専門的な知見に基づき、裁判所を説得するための主張構成と証拠収集を行い、相続放棄が認められる可能性を高めます。
まとめと次のステップ
相続放棄は、予期せぬ借金からご自身の生活を守るための重要な法的手段です。しかし、「3ヶ月」という厳格な期限があり、手続きも複雑です。特に、期限を過ぎてしまった場合や、法定単純承認に当たるかどうかの判断が難しい場合は、ご自身だけで悩まず、速やかに専門家を頼ることが解決への一番の近道です。
札幌にお住まいの方でも、被相続人が札幌市外や道外など遠方に住んでいた場合は、管轄の裁判所が遠方の裁判所になります。その場合でも、当事務所が柔軟にサポートいたしますので、まずはお気軽にご相談ください。
この記事で解説した内容は、あくまで一般的なケースです。個別の状況によっては、より複雑な手続きや判断が必要になることも少なくありません。もし少しでもご不安な点があれば、お一人で悩まずに、法律の専門家である弁護士にご相談ください。

