親の介護を長年…これって「寄与分」として認められる?札幌の相続に強い弁護士が解説

「自分が長年、親の介護を一手に引き受けてきた」

「他の兄弟は実家に寄り付きもしなかったのに、相続分が同じなのは納得いかない」

「介護のために仕事を辞めざるを得なかった。その苦労を少しでも考慮してほしい」

札幌でも高齢化が進む中、このような「介護と相続」に関するご相談は後を絶ちません。

特定の相続人が亡くなった親(被相続人)の財産の維持や増加に特別な貢献をした場合、その貢献分を遺産分割において考慮する制度が「寄与分(きよぶん)」です。

しかし、残念ながら、親の介護をしたという事実だけで、自動的に寄与分が認められるわけではありません。

この記事では、ご自身の介護の貢献が法的に「寄与分」として認められるための厳しい要件や、具体的な主張の方法、そして知らなかったでは済まされない重要な法改正について、札幌の相続に強い弁護士が分かりやすく解説します。

目次

「寄与分」とは?法定相続分にプラスされる特別な貢献

寄与分とは、共同相続人の中に、被相続人の財産の維持または増加について”特別の”寄与をした者がいる場合に、相続人間の公平を図るために、その貢献を金銭的に評価し、法定相続分に上乗せして取得できる財産のことです。

寄与分が認められると、遺産の分け方が変わります。少し専門的になりますが、計算は以下のステップで行われます。

  1. まず、遺産の総額から寄与分の金額を差し引き、「みなし相続財産」を算出します。
     遺産総額−寄与分額=みなし相続財産
  2. 次に、この「みなし相続財産」を、各相続人が本来の法定相続分に従って分けます。これが一次的な取得分となります。
     みなし相続財産×法定相続分=各相続人の一次的な取得分
  3. 最後に、寄与が認められた相続人は、ご自身の一次的な取得分に、最初に差し引いた寄与分の金額を足したものが、最終的な取り分(具体的相続分)となります。
     寄与者の具体的相続分=一次的な取得分+寄与分額

このように、寄与分は貢献した相続人の相続分を具体的に増やすための、法的に認められた重要な制度なのです。

【最重要】寄与分を主張できる期間には限りがあります(2023年法改正)

これまで、寄与分を主張する権利には明確な期間制限がありませんでした。しかし、2023年4月1日に施行された改正民法により、この状況は一変しました。 これは非常に重要な変更点であり、知らないと権利を失う可能性があります。

原則は「相続開始から10年」

新しい法律では、原則として、相続が開始した時(親が亡くなった時)から10年を経過した後は、寄与分を主張して遺産分割を求めることができなくなりました。10年が過ぎてしまうと、原則として法定相続分で分けることしかできなくなり、どんなに大きな貢献をしていても法的に考慮されなくなってしまいます。

この法改正の背景には、長期間放置されている遺産分割を減らし、法律関係を早期に安定させる目的があります。

法改正前の相続にも適用される「経過措置」に要注意!

「うちは10年以上前に相続が始まったから、もう関係ない?」と思われた方も注意が必要です。この新しいルールは、法改正前に開始した相続にも適用されますが、急に権利を失うことがないよう、複雑な経過措置が設けられています。

期限は、「(A)相続開始から10年が経過する時」「(B)法改正の施行から5年が経過する時(つまり2028年3月31日)」の、いずれか遅い方となります 1

  • 具体例1: 2012年5月5日に相続開始。10年経過時(2022年5月4日)は法改正前です。この場合、5年の猶予期間が適用され、期限は2028年3月31日となります。
  • 具体例2: 2016年4月1日に相続開始。10年経過時は2026年3月31日、5年の猶予期間満了時は2028年3月31日。いずれか遅い方である2028年3月31日が期限となります。
  • 具体例3: 2020年4月1日に相続開始。10年経過時は2030年3月31日、5年の猶予期間満了時は2028年3月31日。いずれか遅い方である2030年3月31日が期限となります。

ご自身のケースがいつ期限を迎えるのか、正確に把握することが極めて重要です。

親の介護が「寄与分」として認められるための5つの要件

家庭裁判所などで介護の寄与分を主張し、法的に認めてもらうためには、以下の5つの厳しい要件をすべて満たしている必要があります。

  1. 寄与行為が「特別の寄与」であることこれが最も重要な要件です。
    親子や夫婦には、互いに協力し扶養する義務(扶養義務)が法律で定められています。そのため、一般的な親の世話(時々の身の回りの世話、通院の付き添いなど)は、この扶養義務の範囲内とみなされ、「特別の寄与」とは認められません。扶養義務という通常期待されるレベルを著しく超える、プロのヘルパーに匹敵するような献身的な貢献であったことが求められます。
  2. 被相続人が介護を必要とする状態だったこと寄与分が認められるのは、被相続人が病気や高齢により、客観的にみて介護が必要な状態にあった場合に限られます。
    実務上、要介護認定で「要介護2」以上が一つの目安とされていますが、これは絶対的な基準ではありません。最終的には医師の診断書やカルテなどに基づき、総合的に判断されます。
  3. 無償またはそれに近い状態での貢献だったこと親の介護をすることで、被相続人から十分な給料や生活費を受け取っていた場合は、寄与分は認められません。
    受け取っていた金銭が、貢献度に見合わない低額なものであった場合は、その差額分が考慮される可能性があります。
  4. 介護に継続性・専従性があったこと「週末だけ手伝っていた」「数ヶ月だけ介護した」といった一時的な関与では、寄与分として認められるのは難しいでしょう。年単位の長期間にわたり、生活のかなりの部分を犠牲にして介護に専念していた、といった事実が必要です。
    ただし、必ずしも仕事を辞めて介護に専念することまで要求されるわけではなく、仕事と両立していても「片手間」とは到底言えないほどの著しい負担を伴うものであれば、認められる可能性があります。
  5. 貢献によって親の財産が「維持」または「増加」したこと介護をした結果、「本来であれば支払うはずだった介護費用(ヘルパー代や施設利用料)の支出を免れた」というように、被相続人の財産の維持・増加に直接繋がったことが必要です。
    精神的な支えになった、というだけでは寄与分は認められません。

介護の寄与分はいくら?計算方法の目安

では、実際に寄与分が認められた場合、その金額はどのように計算されるのでしょうか。一例として、以下の計算式が用いられることがあります。

寄与分額 = 介護報酬相当額(日当) × 介護日数 × 裁量割合

  • 介護報酬相当額(日当): この金額は恣意的に決まるのではなく、多くの場合、介護保険制度における介護報酬基準額が参考にされます。また、被相続人の要介護度に応じて金額が変動し、例えば「要介護4の場合は日額6,670円、要介護5の場合は日額7,500円を基準とした裁判例」もあります。
  • 介護日数: 実際に介護を行った日数から、入院期間やショートステイ利用日などを差し引きます。
  • 裁量割合: これは、①介護者が専門職ではないこと、②親族間にはそもそも扶養義務が存在すること、といった要素を考慮して、専門家への報酬額から一定の調整を行うためのものです。実務上は0.7という数値が採用されることが多いですが、0.5~0.8程度で判断されます。

例えば、要介護度に応じた日当が8,000円で3年間(1,095日)介護し、裁量割合が0.7とされた場合、

8,000円 × 1,095日 × 0.7 = 613万2,000円

が寄与分の目安となります。

【重要】寄与分を主張するための具体的な方法と証拠集め

寄与分は、自動的に認められるものではありません。貢献した相続人自身が、他の相続人に対して主張し、合意を得る必要があります。

主張の流れ

  1. 遺産分割協議での主張: まずは相続人全員での話し合い(遺産分割協議)の場で、ご自身の貢献を具体的に説明し、寄与分を認めてもらうよう交渉します。
  2. 遺産分割調停での主張: 話し合いで合意できない場合は、札幌家庭裁判所などの家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立て、調停委員を介して話し合いを進めます。

寄与分を認めてもらうための客観的な証拠

他の相続人や調停委員・裁判官を説得するためには、「これだけ大変な介護をしてきた」という客観的な証拠が何よりも重要になります。証拠がなければ、どんなに大変な介護をしていても、法的に寄与分を認めてもらうのは極めて困難です。日頃から記録を残しておくことが非常に重要です。

証拠のカテゴリー具体的な資料名
介護の必要性を示す資料・医師の診断書、診療録(カルテ)、意見書
・要介護認定通知書、介護保険被保険者証
・ケアマネージャーが作成したケアプラン
介護の具体的内容・期間・負担の程度を示す資料・介護者自身が作成した介護日記、業務日誌(日々の介護内容、時間、特記事項を詳細に記録したもの)
・介護サービス事業者や訪問看護ステーションからの報告書、連絡ノート
・おむつ代、医療費、交通費など、介護のために支出した費用の領収書やクレジットカード明細
・介護のために仕事を休んだ、あるいは退職したことを示す勤務記録や退職証明書
財産の維持・増加への貢献を示す資料・被相続人の預貯金通帳(高額な施設利用料やヘルパー代の支出がないことの証明) ・もし専門の介護サービスを利用した場合にかかったであろう費用の見積書(介護事業者等から取得) ・同種の状況で施設に入所した場合の標準的な費用の資料

相続人以外(例:息子の嫁)の貢献はどうなる?「特別寄与料」制度

「亡くなった義父の介護をしていたのは、相続人ではない息子の嫁(私)なのに…」

これまでの寄与分制度では、相続人でなければ、いくら献身的に介護をしても一切報われませんでした。この不公平を解消するため、2019年7月の法改正で「特別寄与料(とくべつきよりょう)請求制度」が創設されました。

  • 対象者: 被相続人の相続人ではない親族(例:長男の妻、子の配偶者など)。
  • 請求先: 相続人に対して、貢献に応じた金銭(特別寄与料)の支払いを請求できます。

【要注意】特別寄与料の極めて短い請求期間

特別寄与料制度で最も注意すべきなのは、請求できる期間が非常に短いことです。ここには性質の異なる2つの期間制限があり、いずれか早い方が到来するまでに請求しなければ権利が消滅してしまいます。

  1. 相続の開始および相続人を知った時から6ヶ月
    これは「消滅時効」です 。権利を行使しないまま期間が過ぎ、相手の相続人から「時効です」と主張(時効の援用)されると権利が消滅します。裁判上の請求などで時効の進行を止めることが可能です 。
  2. 相続開始の時から1年
    こちらは「除斥期間」です。時効と違い、進行を止めたり延長したりすることは一切できません。この期間が過ぎると、相手の主張がなくても権利は自動的かつ確定的に消滅してしまいます。

この二重の期間制限のため、特別寄与料を請求する場合は、極めて迅速な対応が求められます。

【比較表】寄与分と特別寄与料の請求期間の違い

二つの制度の請求期間の違いは決定的です。一目でわかるように表にまとめました。

制度請求権者請求期間法的性質と注意点
寄与分共同相続人相続開始から10年以内期間制限:2023年4月1日施行の改正民法による。原則としてこの期間を過ぎると遺産分割における主張が不可となる。経過措置に注意。
特別寄与料相続人以外の親族①相続開始及び相続人を知った時から6ヶ月 ②相続開始の時から1年消滅時効:相手方による時効の援用が必要。完成猶予・更新が可能。
除斥期間:期間経過で権利が自動消滅。延長は一切不可。 実質的に短い方の期間が適用されるため、極めて迅速な対応が求められる。

寄与分で揉めたら、すぐに札幌の弁護士へ相談を

ここまで見てきたように、寄与分を法的に認めてもらうハードルは非常に高いのが現実です。

「自分のケースが寄与分に当たるか分からない」

「他の兄弟が全く貢献を認めてくれない」

「どんな証拠を集めればいいか分からない」

寄与分の主張は、法的な知識と交渉力、そして客観的な証拠の有無が結果を大きく左右します。感情的な対立が深まる前に、早い段階で相続問題に精通した弁護士に相談することが、適切な権利を実現するための最善策です。

弁護士は、あなたの代理人として、法的な観点から適切な寄与分額を算定し、他の相続人との交渉や調停手続きを有利に進めることができます。

まとめと次のステップ

長年にわたる親の介護が、相続において金銭的に評価される「寄与分」制度。

しかし、その主張が認められるためには、「扶養義務を超える特別な貢献」であったことを、客観的な証拠に基づいて証明する必要があります。さらに、法改正により10年という期間制限が設けられたため、以前よりも迅速な対応が求められるようになりました。

もし、ご自身の貢献が正当に評価されていないと感じるなら、一人で抱え込まずに、まずは専門家である弁護士にご相談ください。あなたの長年のご苦労が、法的に適切な形で報われるよう、私たちが全力でサポートします。

この記事で解説した内容は、あくまで一般的なケースです。

個別の状況によっては、より複雑な手続きや判断が必要になることも少なくありません。

もし少しでもご不安な点があれば、お一人で悩まずに、法律の専門家である弁護士にご相談ください。

葛葉法律事務所では、初回相談を無料で承っております。

あなたのお悩みに寄り添い、最適な解決策をご提案いたします。

まずはお気軽にお問い合わせください。

監修:葛葉法律事務所

この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。弁護士歴約20年。
【メディア掲載歴】
・「法律事務所ガイドブック2013 頼れる身近な弁護士」(游学社)
・「財界さっぽろ」2021年12月号・特集記事【成功する経営者は士業を使う】
・「anan」2038号・特集記事【仕事も私生活も、身近な「困った」に頼れる!法律のエキスパート】

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