第三者からの情報取得手続による勤務先の調査

 養育費や婚姻費用が不払いとなったとき、相手方の給与を差し押さえたくなりますが、相手方が転職したりすると勤務先が分からないため給与差押えが事実上困難となっていました。
 しかし、令和3年5月1日から新しい民事執行法が施行され、相手方の勤務先を調査する制度として「第三者からの情報取得手続」というのが新設されました。

 ただ、法改正されてからまだ間もないので、実際に第三者からの情報取得手続を利用してみた方はまだそれほど多くないかもしれません。
 そこで、当事務所で実際に第三者からの情報取得手続を利用した体験を踏まえて、申請する際の注意点等についてご説明したいと思います。

①先に財産開示手続をすること
 第三者からの情報取得手続をする前に、先に財産開示手続をしなければならないとされています。
 よって、財産開示手続の申立て→第三者からの情報取得手続の申立て、という2段階の進行となります。
 なお、財産開示手続も法改正により強制力がやや強化された印象があります。ただ、それでも任意に開示されなければ勤務先等の情報は分からないので、あくまで前段階のステップという感じです。

②養育費や婚姻費用の請求であること
 第三者からの情報取得手続で勤務先の調査ができるのは、養育費や婚姻費用の請求か、生命身体の侵害による損害賠償請求(一般的には交通事故事案)の場合のみです。
 それ以外の損害賠償請求や未払代金請求、貸金返還請求などについては、利用できません。
 交通事故事案では保険会社から賠償金が支払われるので、実際に問題となるのは養育費や婚姻費用のケースがほとんどになると思います。

③相手方が厚生年金等に加入していること
 第三者からの情報取得手続によって勤務先が判明するというのは、市町村または年金事務所から勤務先の情報が開示されるためです。
 そして、当事務所で利用したときは、市町村からは有意な情報は得られず、年金事務所から情報が得られました。
 よって、基本的に相手方が厚生年金等に加入していること、つまり相手方が正社員として雇用されていることが望ましいといえます。
 そもそも正社員として雇用されていなければ給与差押えをする実益が乏しいので、これで勤務先が判明しない=正社員として雇用されていないというのであれば、もとから差押え可能な財産が無いものとして諦めるほかないでしょう。

 さて、実際に第三者からの情報取得手続を利用してみた感想ですが……、

 本当に勤務先が分かって給与差押えができるのだなあと感動しました。昔からすると考えられない結果です。
かかった時間については、第三者からの情報取得手続の申立てから勤務先に関する回答書が届くまで約1ヶ月強でした。これ自体はさほど長くはないと思いますが、実際には財産開示手続が先行しているので、全体での時間はもっとかかります。
 それでも、やって良かったと思えるくらいに解決できたことを記しておきます。

 ちなみに、当事務所で申立てをした管轄裁判所は某地方裁判所の支部でしたが、当該支部で第三者からの情報取得手続の申立ては初めてだったそうです。
 やってみると便利の一言に尽きるので、きっとこれから利用が増えるのではないかと思います。


この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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