遺産分割における不動産の評価方法の実務

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不動産の評価額が必要となる理由

遺産に不動産がある遺産分割では、不動産をいくらと評価するかが問題となります。
不動産を売却処分して売却代金を分配するのであれば問題となることはありません。
しかし、相続人のうちの誰かが不動産を取得するという場合は、その不動産の分だけ他の遺産(預貯金等)からの取り分を減らすことになります。
そうすると、どれだけ取り分を減らせばよいのかを算定する必要があり、そのためには相続人が取得した不動産をいくらと評価するかを決める必要があるわけです。

不動産の評価方法

不動産の評価方法としては、公示価格、都道府県地価調査標準価格、固定資産税評価額、相続税評価額(路線価)などがあります。

このうち分かりやすいのが固定資産税評価額です。毎年6月頃に届く固定資産税納税通知書に記載されています。
そのため、とりあえず固定資産税評価額に基づいて不動産を評価することもあります。
ただ、固定資産税評価額は市場価格とは合致しないことが多く、一般的には市場価格の70%程度とも言われています。
そのため、不動産を取得する相続人にとって有利であるため、他の相続人からは固定資産税評価額により評価すべきでないとされることもあります。

なお、相続税の申告においては路線価で算定します。
しかし、路線価も実際の市場価格から乖離していることが多く、遺産分割における評価額では路線価が用いられることはほとんどありません。

実務的な評価方法

固定資産税評価額で算定しない場合、実務的には以下のように進められることが多いです。

①不動産業者による査定

実務で最も多いのが、不動産業者に査定を依頼することです。
不動産業者はどこでも構いませんが、問題となる不動産の近場にある業者に依頼するのがスムーズでしょう。
査定は無料査定で行う場合もあれば有料査定で行う場合もあります。無料と有料とで扱いに大差ないことが多いので、とりあえず無料査定で良いでしょう。
建物などは内覧等をした方が寄り正確な査定が可能となりますが、不動産に居住していない相続人からすると内覧等も含めた査定を行うことが困難な場合もあります。そのような場合には内覧等をしない査定(いわゆる机上査定)でも構いません。

②不動産鑑定士による鑑定

不動産業者による査定は、依頼する業者によっても結果が異なります。
実際、各相続人がそれぞれ別々に不動産業者に査定を依頼し、各自にとって有利な査定結果を主張するということも多いです。
そのようなときは、それぞれの査定額の間で合意できる金額を調整することとなります。
それでも調整がつかない場合は、最終的には鑑定を行うこととなります。
鑑定は、裁判所が選任した不動産鑑定士によって実施され、鑑定の結果について報告書が提出されます。
鑑定が実施されると、基本的には鑑定による評価額に基づいて処理されることとなります。
ただし、鑑定には少なくとも数十万円の費用がかかるため、費用をかけて鑑定をする前に各自の査定額の中間で合意するということも多いです。

まとめ

不動産の評価額を決めたい場合は不動産業者に査定を依頼する。
評価額で揉めたときは最終的には裁判所の鑑定によることとなる。


この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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