遺産相続における不正行為はばれないか?|相続に強い札幌の弁護士が解説

遺産相続に関する法律相談を受けていると、結構な頻度で「相手が相続財産を隠そうとしているのではないか」という疑念を伺います。
実際、相手方から相続財産の内容がきちんと開示されないことも多く、そのような場合はどうして開示されないのか、何か後ろめたいことがあって隠しているのではないか、と疑われても仕方ないケースも見受けられます。
そこで、ここでは弁護士が遺産相続の法律相談を受けているときにしばしば質問される、遺産相続で不正行為ができるかという点について解説します。

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被相続人の死亡前後に相続財産の預貯金を引き出してもばれない?

相続人は単独で金融機関から預貯金の入出金明細を取り寄せることができるので、簡単にばれます。

被相続人と同居してその通帳を管理している相続人がいる場合、被相続人の死亡前後に預貯金を引き出すということをする人がたまにおられます。
昔は、葬儀代に充てるために口座が凍結される前に預金を引き出すべく、被相続人が危篤になったらまず預金を下ろせと言われた時代があったようにも聞きます。
しかし、問題となるのは葬儀代のためというようなケースではなく、単に預貯金を引き出して残高を目減りさせ、他の相続人に対して相続財産の預金がほとんどないように見せかけるというようなケースです。
他の相続人からすると、預貯金の残高だけ教えられ、「そんなに少ないはずはないだろう」と不審に思うわけです。

そのような場合、他の相続人は、銀行などの金融機関に被相続人の口座の入出期明細を開示するよう請求することができます。
これにより、直近10年間(期間は金融機関によって異なる場合があります)の預貯金の出入りが分かります。
したがって、被相続人の死亡前後にATMでお金を引き出している場合、引き出した金額と年月日がはっきり確認できるわけです。

不動産をこっそり相続登記することはできる?

相続登記をする際に法務局に全相続人の署名捺印や印鑑登録証明書が必要となるので、他の相続人に隠れて相続登記をすることはできません。

相続財産に不動産がある場合でも、相続人にとってはどこにどんな不動産があるのかはっきりわからないということも多いです。
そうすると、被相続人と疎遠だったため相続財産を把握していない相続人からすると、本当なら不動産があるのに、相続財産を把握している相続人が自分だけで相続登記して不動産を勝手に取得してしまうのではないか、という危惧を抱くことがあります。

結論からいうと、不動産を勝手に相続登記するというのは不可能です。
不動産の相続登記は法務局に申請する必要があり、その際には相続人が分かる戸籍関係の資料と、それにより確定される全相続人の署名捺印した登記原因証書(遺産分割協議書等)などが必要となります。
つまり、全相続人の協力がなければ不動産の相続登記はできない仕組みになっているのです。
したがって、文書偽造等の犯罪をしない限り相続登記に必要な書類を揃えることはできませんし、法務局に看破されないような精巧な文書偽造はまず無理なので、相続財産の不動産を勝手に相続登記される可能性は基本的に無いと考えていいでしょう。


この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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