自筆証書遺言の保管制度

自筆証書遺言とは、遺言者が全文を自書して作成する遺言書のことです。
恐らく一般的に遺書として想像するタイプがこれではないでしょうか。

自筆証書遺言は、誰でも自分で手軽に作成できる反面、公正証書遺言と違って内容を精査する人がいないため法的に無効となるリスクがあります。
また、公正証書遺言は公証役場に保管されますが、自筆証書遺言は基本的に自分で保管しなければなりません。そのため、紛失等のリスクが付きものでした。

そこで、平成30年の相続法改正の目玉のひとつとして、自筆証書遺言を保管する制度ができました。
保管される場所は法務局になります。

ただし、保管に適した書式に則って作成することを要求されます。
用紙はA4サイズに限定され、上下左右に規定幅の余白を入れなければなりません。自筆遺言証書を作成する場合、1枚の紙に収める等の理由でA3サイズといった大き目の用紙を使うことがままありますが、それができないわけです。
また、保管するためにわざわざ法務局に申請に行かなければならないのも億劫です。自分で手軽に作成できる自筆遺言証書のメリットをかなり減殺しています。法務局に申請に行くくらいなら、公証役場で公正証書遺言にする手間を惜しむ理由もない気がします。

そうなると保管制度の存在理由が分からなくなるのですが、一点、注目すべきシステムがあります。
それは、遺言者が死亡した時に、法務局から相続人等へ遺言書を保管していることを通知するとなっていることです。
公正証書遺言では、公証役場から相続人にこのような通知をすることはありません。そのため、公正証書遺言を作ったことを相続人に秘密にしていると、相続人が遺言書の存在を知らずに遺産分割をする可能性がありましたが、その恐れがなくなるわけです。

とはいえ、実際に保管制度が利用されるケースは少ないのではないかと予想されます。
強いて言えば、無効となるリスクをなくすために弁護士等に相談しながら自筆遺言証書を作成して法務局に保管の申請をする、というスキームが定着するかどうかといったところでしょうか。

この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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