配偶者短期居住権と配偶者居住権

平成31年の法改正で新たに『配偶者短期居住権』と『配偶者居住権』というのができました。
言葉が似ており混同しやすいかと思いますので、ざっくりとそれぞれの制度内容についてご説明します。

【配偶者短期居住権】
簡単にいえば、被相続人の自宅に同居していた配偶者が相続開始後もしばらくは自宅に居住し続けることを認めるというものです。これは今までも判例によって一応認められていましたが、今般の法改正で制度化されたというものになります。
居住可能な期間は、自宅の遺産分割が確定した日か、相続開始から6ヶ月か、いずれか遅い方とされています。もし遺産分割が6ヵ月以上かかれば遺産分割が確定するまで居住可能で、反対に遺産分割が2ヶ月で確定した場合でも6ヶ月は居住可能ということになります。
このように配偶者短期居住権は、配偶者が相続開始によって自宅から転居しなければならない場合に、その猶予期間を設けるというのが主な目的になります。

【配偶者居住権】
簡単にいえば、被相続人の自宅に同居していた配偶者に自宅に居住する権利を財産化して相続させるというものです。これは今までの相続法にはない概念で、全く新しい制度になります。
配偶者短期居住権は、相続開始後に猶予期間を設けつつもいずれは自宅を退去するというのが前提となります。他方で、配偶者居住権は、長期間(あるいは終身)にわたり自宅に居住することを認めるものになります。
これまでは自宅に居住し続けるためには基本的に自宅を相続する必要がありました。しかし、自宅を相続するとその分だけ預貯金等他の遺産を相続する分が減り、場合によっては経済的にその後の生活が苦しくなる恐れもありました。そこで、自宅の所有権は相続せず、居住権というものだけを相続することにして、相対的に預貯金等他の遺産から相続する分を増やすのが主な目的です。
配偶者居住権を設定した場合の居住権と自宅の所有権の財産価値の合計は、配偶者居住権のない自宅の所有権の財産価値と同等になるように算定します。そのため、居住権の財産価値は所有権よりも低く、所有権の財産価値は居住権のないまっさらな自宅の所有権と比べて低くなります。
配偶者としては、仮に自宅を相続してもいずれは子世代に相続されるのだから、それであれば最初から自宅は相続せず居住権だけを取得する方がむしろ後腐れがなくて良い、と考えることもできるでしょう。

この記事の執筆者

東京・大阪の二大都市で勤務弁護士の経験を積んだ後、
2008年から実務修習地の札幌で葛葉法律事務所を開設。
相続、離婚、交通事故、会社間の訴訟の取扱いが多め。
弁護士歴約20年。

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